特別編 衣笠未来、3月11日の夜
3月11日という日を、私は好きになれないでいる。
あの日だって、決して悲劇だけが起きたわけじゃない。誕生した命もあったり、誰かにとっての記念日だったりもするのだと思う。
何年前のきょうにどんな悲劇が起きたと気にしていたらきっと、366日すべてが当てはまってしまうわけで、この世界にはどうしたって、悲しみは絶えない。
けれどこの日は私にとって、特別な日。それはきっとこの先も、一生そうなんだと思う。
私はあの日、なにもできなかった。ただひたすら、地上で、地球に揺さぶられているだけで、自分の生まれ育った街に津波が押し寄せているとケータイのワンセグで知っただけで、しかしそれは近年東北を襲った津波同様に、街を呑み込むほどのものではないと思っていた。それだけ能天気に、ただ仙台の市街地から自宅へ向かって歩いていた。
惨状を知ったのは、帰宅後だった___。
東北地方を中心に広域を襲った津波、福島県では原発事故、気仙沼では大火災、千葉県ではコンビナートが爆発。
北海道から沖縄まで、全国が揺れるほどの地震に人間が太刀打ちできるわけもなく、ただただ無力さを実感した。
でも時が過ぎて、今ならばもしかしたら、東北の未来のためになにかできるかな?
‘未来’と名付けられた私だけれど、いまのところ地域の未来に大きく貢献できるほどの力はなくて、やっていること、やってきたことといえば地域のものを買って食べたり復興イベントのボランティアに参加したくらい。
けれど、そんな小さなことが、誰かや何かの力になっていたらいいな___。
一人ひとりの小さな行動は、それが集まって大きな力になる。集まらなくても、誰か一人の力になれれば、それはどんなに素晴らしいことだろう。
そんなことを思う、衣笠未来、3月11日の夜。