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未来がずっと、ありますように  作者: おじぃ
仙台帰省・宮城の旅6

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ベタなラブソングのように

「本牧さん、どこか行きたいところはありますか?」


 仙台といえば牛タンということで、衣笠さんイチオシのお店で舌鼓を打ち、そこを出てとりあえず仙台駅のペデストリアンデッキに設置されたベンチに腰を下ろした。昨日と変わらず街には多くの人々が行き交い、見上げると屋内駅舎の騒音対策ガラスを隔てた先に新幹線電車が停車していた。


 暑さがピークに達するこの13時過ぎ、どこでも構わないから涼しいところへと思ったものの、そう言ってしまうとクマが出そうな山奥の河原などへ連れられそうな気がしたから、真面目に検討してみよう。


 しかし仙台は過去に何度か訪れていて、観光スポットもいくつか巡っている。なかには元カノと訪れたところも……。


「衣笠さんのおすすめスポットはありますか?」


 迷った挙句、結局質問で返してしまった。


「うーん、青葉城跡あおばじょうあととか八木山やぎやま動物公園は行きましたか?」


「はい、仙台には何度か来ているので、有名な場所はいくつか知っています」


「そうですよね~。鉄道職員さんだし、観光スポットには詳しそうと思っていたので……」


 言うと、衣笠さんは右人差し指の側面をあごに当て、神妙だがどこかふわっとした雰囲気を漂わせ、なにか考え込む素振りを見せた。


「厳密には山形県になっちゃいますけど、仙台のすぐそばにある面白山高原おもしろやまこうげんっていう無人駅の周辺がですね」


 話している最中だが案の定クマが出そうなスポットを提案されたので、口を挟む。


「あ、そこは行ったことあります」


 駅に配属されたばかりのころ、有給休暇を行使して平日の昼間に山寺やまでらへ向かう一人旅の途中その一つ手前にあったのが面白山高原駅、面白い駅名と思ってなんとなく降りたのだ。仙台駅から仙山せんざん線で約1時間。冬はスキー場として栄えるが、夏は駅周辺で手軽に自然を満喫できる秘境と化す二面性のあるエリアだ。


 確かに面白山高原駅周辺は水の綺麗な河原があり、美しい場所だ。特に山中の道沿いに生える傘の真っ赤なキノコはもう一度お目にかかりたいほど印象的だった。しかし今朝クマを目の当たりにしたばかりの僕にとって、あまり人気ひとけのないそこは刺激が強すぎる。1時間の滞在で出合ったひとは3人だった。都会の路地裏よりよほど安全な場所とは思うが、人間心理とは不思議なものだ。


「とっておきの場所の一つなのに行ったことがあるとは、さすがプロ。うーん、これは困りましたね。何度行っても飽きない場所はたくさんありますが、せっかくだから地元民ならではのスポットに案内したくて……」


 自分でデートプランを練るばかりで女性に出掛ける場所を考えてもらう経験がほとんどなかった僕にとって、うーん、と思い悩む衣笠さんの姿は新鮮で、しかし仕事や被災地を訪れているときの張り詰めた雰囲気はない。真剣なのにどこかまぬけな所作がなんだか微笑ましく、素直に愛しいと思える。


 それだけじゃない。これまでも僕は気分転換と仕事のリサーチを兼ねて地元の鎌倉市内から遠方まで津々浦々と出掛けていたが、彼女の存在は行く先々の景色を鮮やかにしてくれて、日頃からどこか不健康で重たいからだをスッと軽くしてくれる、不思議な力がある。


 これまで出逢ってきた誰にも、それはなかった。


 ベタなラブソングのように、君がいるだけで世界は輝き出すとか、実際の恋愛ではそんなことない、確かに楽しいには楽しいが、心の曇った日々が続くときもよくあった。しかし彼女と過ごす日々は本当に、世界が輝いているようだ。


 ただ一つ、曇りの要因といえば、予知能力。


 あまり珍しくもない能力ではあるものの、まさか彼女のお祖父さまにもそれがあるとは。現状では実るかわからない僕の恋愛より、こちらが先の問題だ。


「あ、そうだ! あそこば何気にいいとこだっちゃ!」


 お、なにか思いついたようだ。それにしても、やはり物凄いなまりようだ。

 お読みいただき誠にありがとうございます!


『であい』という言葉を2パターン使った回となりました。


 来週は企画準備のため本作続話の投稿をお休みさせていただきます。お楽しみにしていただいております皆さまには大変恐縮でございますが、何卒ご了承ののほど、お願い申し上げます。

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