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未来がずっと、ありますように  作者: おじぃ
花梨&英利奈
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いまを生きるので手一杯

「とりあえずお風呂に入って少し寝なさい」


 えりちゃんのお家におじゃまして、最初に言われたこと。


 有名人だらけの街、茅ヶ崎の駅近に建つ高層マンションの7階。ゆったり脚を伸ばせるバスタブ、4人くらいはいっしょに入れそうな浴室。出るのが勿体なくて、つい長風呂しちゃった。1時間ちょいくらいかな。同じ職場で働いていながらこんな贅沢な暮らしができるなんて羨ましい。


 でも私だって19歳にしては高所得。貧乏と言いつつそれなりに自由な生活をしている。


 お言葉に甘えて3時間昼寝して、目覚めたのは15時過ぎ。


「ふわぁ~、久しぶりにゆっくり寝た」


 狭い自宅ではいつも父がアニメ原画の仕事をしていて、なんだか落ち着かない。


 クローゼットと押し入れ、折り畳みベッドがあるだけのシンプルな客間。グレーのカーテンの隙間から、レースのカーテン越しに外の光が射し込んでいる。


 自宅と職場の往復を繰り返し、特に代わり映えない日常。休日に出かけるところといえば地元のアニメショップと川崎駅隣接のショッピングモール、たまにヨコハマみなとみらい。


 つまんない女だな、私。でも、過労なのか一日のなかで眠気を感じない時間はほんの数時間で、とても面白いことを考えたりアグレッシブに何かを始める身体的余裕はない。社会人になってからずっとそう。体調万全ですっきりした日なんて滅多になくて、与えられた仕事をこなし、考えることは給料とか節約とかお金のことが主。


 つまり、いまを生きるので手一杯。


 これじゃいくらマルス(チケット類の発券などを行う端末)を早く叩けたって、絵がいくら上手くなったって、生活水準は高が知れている。自発性がないのにリッチになれるなんて甘いこと、いくら私でも本気では考えていない。


 必要なのは、技術だけじゃない。


 社交性、積極性に長けていて、必要に応じ適切に見極め思い切った投資をする……。


 僕が出会ってきたお金を稼ぐ人はこんな感じかな。例外もあるけど。って本牧さんが言っていた。


「はぁ……」


 思わず溜め息が漏れた。


 でも私の場合、それ以前に何かが欠けている。いや、何が欠けているのかわかってはいるけれど、なんていうか、そうなれない自分がいて、でも駅ポスターのイラスト描いててやっとその気になれてきた感があるような、そんな感じ。


 ベッドを折り畳んでリビングに出ると、点灯していないスズラン型シャンデリアの下、椅子に座るえりちゃんは、イラストらしきものがプリントされた一枚のA4紙をぼんやり眺めていた。

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