気になること
「おやすみなさい。せっかくのんびりできたはずなのに、こんな時間まで付き合わせてしまって申し訳ありません。朝はお庭の草刈りをするのでちょっと騒がしいですが、お気になさらずゆっくり寝ていてください」
2階の六畳間には布団が敷いてあり、僕は朝までの数時間、ここで寝かせてもらう。
「ありがとうございます。おやすみなさい。今夜はとても楽しい時間を過ごさせていただきました」
時刻は4時。うっすら空が明るくなってきた。まともに寝たら昼までぐっすりだが、さすがにそれは迷惑だろう。草刈り機の音を目覚ましに起きるとしよう。
ところで、気になることがひとつ増えてしまった。
先ほど衣笠さんが語っていた‘夢’とはどういうものなのか。
単純にウエディングプランナーとして遥かな高みへ飛躍したいのか、それとも『海王星』と比喩したように、遠方に想いびとがいて、そいつと縁を結びたいのか。
後者の可能性を鑑みて、僕は意地悪な回答をしてしまった。
ただし現実問題、夢や理想と現実のギャップは付きもの。仕事、恋愛、どちらのケースに於いても適当といえる回答をしたつもりだ。
微笑みながら襖を閉める衣笠さんを見送り、布団を掛ける。ふかふかしていて、自宅の煎餅布団とは大きく異なる寝心地、掛け心地に戸惑った。
これまたやわらかい木綿枕に頭を委ねると、全身の力が一気に抜けてゆく快感に支配された。
お読みいただき誠にありがとうございます!
今回はキリが良かったため短めのお話とさせていただきました。