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未来がずっと、ありますように  作者: おじぃ
仙台帰省・宮城の旅5
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積み重ねが私を大きくするんです!

「あぁ、これ? これに映ってるのは私ではありません。私とそっくりな人です。だいいち私は文芸部員でしたので、軽音楽部のボーカルなどやっているわけがありません」


 緑の学校ジャージ姿で風呂上がり独特のもやっと甘い石鹸の香りを漂わせて茶の間に戻って来た衣笠さん。僕が「DVD見せてもらいました」と、マジックペンでタイトルが書かれたディスクを提示した途端、死んだ魚の眼になって冷静に否定した。


「なにも訊いていないのに墓穴ぼけつを掘りましたね。僕はDVDを見せてもらいましたと言っただけで、衣笠さんがボーカリストとして出演していたとは言いませんでしたよ?」


 しかし驚きだ。さきほどまでニャンニャン乱れていた彼女だが、入浴しただけであっさり酔い覚めするとは。


「あ! ああ! そうですね! 今のはなんでもありません発言を撤回します! これはあくまでもじいちゃんが趣味で収めた女子高生たちの姿ですので、公序良俗に反するものだし、盗撮映像です。これで少しでも長生きしてくれたらと思って処分をしていないだけで、本来ならこんなもの言語道断です!」


「そこまで言わなくても……。お祖父さましょんぼりされていますよ?」


「しょぼーん。じいちゃんショック、略して‘じいショック’だっちゃ」


「ほら、可哀想に」


「本牧さん、あなたはよくわかってる。うちの女はアホなくせに強情だから困る」


「なに短時間で結託けったくしてるんですか! そうやって良心に付け込むの、詐欺師の常套手段じょうとうしゅだんですよ!? 人間として恥ずかしくないんですか!?」


「すみません、衣笠さんみたいに勝手に墓穴を掘るほど純情ではありませんでして」


「ああはいはいわかりました。私は汚れなき純情乙女なので白状します。ええ、そうですとも、私です。このDVDに映っているのは! わ・た・し・で・す! 文芸部員だからって物書きしかできないと思ったら大間違い。というか、ドラムやってたお友だちに頼まれたのでチャレンジしました。難題とは思いましたが、最初から‘できない’って断るよりまず可能な限りやってみる。この積み重ねが私を大きくするんです! 観客の方やお友だちには喜んでもらえたし、お礼に1ヶ月間ご飯とかスイーツとか、色々おごってもらいました♪」


 開き直った。


 やはり彼女は常に未来志向で生きている。


 まぬけでどうしようもない人だが、芯はしっかり通っている。


「あースッキリした! 本牧さんもじいちゃんも汚らわしいことやってないでクリーンに生きてみてはいかがです? 日常のモヤモヤが少しだけなくなりますよ?」


「すみません……」


「今まで認めなかったくせに」


「じいちゃん余計なことは言わなくていいの」


 その後、お祖父さまお祖母さまが床に就き、午前1時に衣笠さんの両親が帰宅されたので、軽く挨拶させていただいた。夫妻とも疲労困憊といった感じで目は虚ろ。どういった性格だとかは読み取れず、自我を失っているようにも見えた。


「ごめんなさい。うちの両親、毎晩午前さまで……」


 僕と衣笠さん以外は寝静まり、煌々とした居間は深夜の静けさに包まれていた。


「大変ですよね。毎晩なら余計に」


「はい。こんど無理矢理にでもどこかに連れ出そうかなって」


「そうですね。親孝行してあげてください」


「はい。あの、ちょっと缶ビール1本持って、外でお話ししませんか? 星がきれいなので」


 なんだかロマンチックな提案をしてくるなと意外性を感じつつ、僕は衣笠さんの誘いに乗った。

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