ごろごろにゃーん♪
「にゃーん♪ ズリズリズリごろごろごろにゃーん♪」
急に何を言い出したかと思いきや、僕の正面で飲酒をしていた衣笠さんが四つん這いでこちらへ回り込んできて、僕の胸に擦り寄って来た。まんま猫だ。大きな猫だ。酒の作用で顔を紅潮させているが、まるで夢の世界を旅しているかのようにとても安らかな表情。柄にもなく、僕までほんわかしてしまう。
「よーしよしよし」
面白いからスマートフォンで動画撮影しつつ、彼女の頭をやさしく撫でる。
「んふふー♪ きもちーにゃー、もっと撫でてにゃー!」
要求にお応えし、あごを撫でてみる。
「んぶふっ、そこはくすぐったいにゃあ」
猫はあごを撫でると喜ぶが、どうやら体質まではそうなりきれていないようだ。
「ごめんなさいねぇ、この子、甘えん坊さんだから」
「いえいえ、前からこうなんですか?」
「そうねぇ、酔っ払うと一人でゴロゴロにゃんにゃん言って転がったりはするのだけれど、こうやって擦り寄るのは初めて見ましたねぇ」
「はははっ、そうでしたか」
そうか、僕のこと、気に入ってくれてはいるのか。良かった、単なる仕事のパートナーという関係ではなくて___。
「にゃーにゃー本牧にゃあ! きょうはうちまで来てくれてありがとにゃ? とーってもうれしいにゃん♪」
「こちらこそ、きょうはありがとうございます」
おじゃましてほんの小一時間だけれど、彼女の育った家庭は温かく、だからこそ、心底から穏やかさがにじみ出ている、そんな気がした。
「お? なんだいまたお客さんかい?」
衣笠さんに腹をズリズリされていると、部屋の隅で眠っていたお祖父さまが目を覚ました。




