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未来がずっと、ありますように  作者: おじぃ
仙台帰省・宮城の旅5
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未来のトリガーポイント

「お先ありがとうございます」


「いえいえ、さ、ご飯できてますから」


 衣笠家の浴室はやや広めに取られていて、ご丁寧に森の香りの入浴剤が溶けていたバスタブではゆったり脚を伸ばせた。浴槽に垢を浮かせてしまっていないか心配だ。


「遠慮は要りませんよ! けど田舎の家庭ではバカみたいにバンバンお料理出るから無理しないでくださいね!」


「本当に凄い量だ。何かお手伝いさせてください」


「いえいえ、お客さまなんだからゆっくりしていてください!」


 慣れない環境にいまいち落ち着けないが、ここはじっとしておこう。


 キッチンからは、未来、そっちの暮らしは楽しいかい? うん、楽しい! みんなが泊まれるように広めのお部屋を借りてるから遊びに来て! と、家族水入らずの会話が聞こえる。手伝いという配膳作業効率化のために僕がその輪に入る必要はない。


 ところでお祖父さま、大丈夫だろうか。


 ごくありふれた間取りの少し広いモダンハウスの居間。座布団では衣笠さんのお祖父さまという高齢男性が顔を真っ赤にして横たわっている。しかしお局さま方はまるでそこに誰もいないかのように一切構わず隣のキッチンから料理を運んでいる。


 ワカメ、キュウリ、ミカンを和えた酢のもの、野菜炒め、ずんだ餅、それと瓶ビールに日本酒。


 3人揃って‘いただきます’を言ったのは、風呂上がりから15分後だった。


「あぁ、酸っぱいのにホッとする味だ」


 初めにお通しとしての酢のものをいただいた。自分でもつくれるし惣菜として市販されているが、何かが違う。


「おいしいでしょう? 私もばあちゃんがこさえたこれ食べるとホッとするんです」


「いいですね、こういうの。家族団らんっていう感じで」


「ふふっ、うちで良ければいつでも遊びに来てくださいっ」


 お国訛りを交える衣笠さんにビールを注いでもらい、いくつかの意味を込めてありがとうございますと告げる。お祖母さまは湯呑みで温かいお茶をすすりながら一息ついていて、料理には手をつけない。


 日本酒メーカーのロゴマークがプリントされた小さなグラスで衣笠さんと二人で乾杯を交わし、互いに半分ほどを流し込んだ。


「わたし最近気付いたんですけどぉ、ビールって味わうよりのど越しを愉しむ飲みものなんですねぇ」


 衣笠未来、やや訛る。


「そうですね。中には香りを愉しむものもあったりするので、飲み比べてみると面白いかもしれません」


「あ、そういえば茅ヶ崎(ちがさき)にイタリアンレストランを兼ねた酒蔵ありますよね。こんど連れてってください!」


 僕らが住む鎌倉の二つ西に位置する街、『茅ヶ崎』。これを『枝豆』と同じイントネーションで発音するとは。だめだ、きっとこれが東北地方のスタンダード。笑いをこらえなければ。


「えぇ、お休みが重なった日にでもぜひ」


 料理をいただきながら、僕と衣笠さんはここぞとばかりにぐいぐいと酒を流し込む。この日本酒、辛口で味わい深い……。


 僕は多量に飲酒をしても態度が乱れたり吐き気をもよおさない体質で、少々意識がクラクラする程度だが、衣笠さんは頭を揺らし始め、言葉数が少なくなってきた。


 このとき、彼女はもうトリガーが外れる寸前だったのだ___。

 お読みいただき誠にありがとうございます!


 恐れながら、先週は急病の影響で更新をお休みさせていただきました。

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