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未来がずっと、ありますように  作者: おじぃ
企業絵師かりん!

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母性本能

「ぅあ~、クッソねみ~」


 仮眠個室、朝4時に設定したタイマーが作動してベッドが自動で起き上がる。寝坊防止のシステムだけど、本音を言えば二度寝したい。


 起床したらまず洗顔、手洗い、歯磨き、朝食、化粧とかのルーティーンをして、駅や窓口の営業準備。この仕事、ほんと肌に悪いからスキンケアが大変。


 事務室で絵を描いて窓口で切符や定期券を売ってバタバタしてたらあっという間に4時間経過。きょうの天気はどんなだろう。傘を持ってる人はあんま見なかったから晴れかな。


 ずっと屋内で働いてると、晴れとか雨とか、明るいとかくらいとか、外の様子が面白いくらいわからない。この閉塞感が鬱感を増幅ぞうふくさせる。


 あ~、日本人ならほとんど誰でも知ってるでっかい会社だから入ってみたけど、私、鉄道向いてないわ。車両だって色違いでみんな同じ型に見える。まあ実際ほとんど同じなんだけど。


 でも社員は親しみやすい人多いし、残業代ちゃんと出るし、労働基準法を超える勤務はないし、いまどき珍しい黒くない企業なんだわ。だから転職する勇気はない。


 でも、いまの私じゃだめなんだ。生活するためだけに働いてるいまの私じゃ、人生ずっと内向きなままだ。そんなこと、本牧さんとか未来ちゃんを見てればわかる。あの人たち、ちゃんと目標持って生きてるからオーラがキラキラでイキイキしてるもん。


 さて、ホームに行きますか。


 その前に腕時計と運行状況を確認。ふむふむ承知。


 立ち位置へスムーズに向かうため、電車が発車して2分後、通勤ラッシュのお客さまが捌けたタイミングでホーム中央部、黄色い線の上に立つ。お客さまは黄色い線の内側だけど、社員はホームや線路を見通すため黄色い線から2つ外側の点線まで立って良い決まりになっている。けど未来ちゃんみたいに線路に落ちるのが怖いから私は線の上。


「お下がりください。各駅停車、八王子はちおうじ行きが到着しております」


 定位置に立つとすぐ次の電車が入って来たので、案内放送を入れて注意を促す。


 あぁ、クソあつ。絶好のプール日和だわ。大磯おおいそロングビーチ行きたい。


「業務放送到着フタバン、延発えんぱつ53分コロコロです」


 2番線に到着の列車は53分00秒に発車時刻変更という意味。


「お客さまにお知らせいたします。ただいま到着いたしました8時51分発の八王子行きですが、後続列車が石川町元町中華街いしかわちょうもとまちちゅうかがい駅で急病人救護のため運転を見合わせております。間隔調整のため本日は2分遅れ、53分の発車とさせていただきます。朝のお忙しいなか電車遅れまして申し訳ございません。恐れ入りますがそのまま車内でお待ちください」


 よし、噛まずに言えた。


 立ち客まばらな電車はドアを開いたまま、日本語と英語の行先表示を繰り返して発車を待つ。


「ねぇ、急いでるんだから早く走らせちゃってよ。病人いるのこの電車じゃないんでしょ?」


 私に声をかけてきたのは中肉中背、スーツ姿のオッサン。


「ごめんなさい! 忙しいのにほんとにすみません! 申し訳ないです!」


「え? あぁ、うん、大事な会議あるから早くしてよ?」


「はい! 本当に申し訳ないです!」


 とはいえ、列車の抑止は指令員が決めるから駅員は指令室に文句言うくらいしかできない。入社したてのころ、マニュアル通りに接客したらお客さまを余計に怒らせちゃったんだけど、本牧さんが「自然な口調で話したほうが納得してもらいやすいよ」って教えてくれて、それを実践したら確かに。それでも怒り続ける人はいるけどさ。


「すみませーん!」


 続いてちょっとやんちゃっぽいTシャツ短パン小僧の登場。中1くらいかな。私より背が低いから、少し屈んで視線を合わせる。


「はい! どうされました?」


「これ、なんて読むかわかりますか? 親にこの駅に行くように言われてるんですけど」


 小僧からメモを手渡され、それには黒い油性ボールペンで『国府津』と書かれていた。


国府津こうづですね。この電車に乗って、横浜駅から東海道線の小田原おだわら方面にお乗り換えください!」


「へぇ、姉ちゃんギャルっぽいのに漢字読めるんだ」


「なんですと!?」


 確かにギャルですけどそれが何か!


「ハハハ怒った怒った! 制服はカッコイイけど中身はまだまだお子ちゃまだね!」


「うっ……」


 このクソガキ!! プライベートだったらメッタメタのギッタギタにしてやんのに!!


「でもサンキュー! おかげで行けそう! えーと、クニフツ?」


「国府津です! こ・う・づ!」


「あーそうだ国府津!」


「乗り換え間違えたり寝過ごしたりしないでね!?」


「おう任せろ!」


 だいじょぶかなぁ。


 私の心配を他所に、小僧はひょいと電車に乗り込み、ちょうどいいタイミングでドアが閉まった。


 クソガキだけど、サンキューって言われたとき、素直にうれしくて、無事に国府津に着いてほしいなって心底思った。それに可愛さなんかも感じたりして。母性本能ってやつ?


 進行方向反対側を向いて立ち、走り去る電車の車掌に敬礼。線路や架線がせん河川かせんと認識違いをしないように敢えて『がせん』と読む)に異常がないか指差確認しさかくにんしながら回れ左で180度。指先に神経を集中させて、はいオーライ。電車がカーブの向こうへ消えたそのとき、ピンときた。


 そっか、松田さんが言ってたの、そういうことか!

 お読みいただき誠にありがとうございます!


 作者側の事情で恐縮ですが、現在、各作品をなるべく安定して更新できるよう調整を行っております。


 結果、最初に安定したのが本作! 昨年初夏には打ち切りしかけましたが、試行錯誤を重ねほぼ毎週更新を実現。皆さまのおかげで最も安定した作品に成長できました! 本当にありがとうございます!


 作品自体も源まめちちさんの影響を受けつつ、だいぶ彩り豊かになりました。トイレの消臭剤、そろそろプレゼントしようかな(笑)


 今後ともよろしくお願いいたします!

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