◇駅の仕事はぶっちゃけキツい
既にTwitter等でお知らせさせていただきましたが、源まめちちさんによる新着イラストをいただきましたのでご覧ください!
今回もイラスト左側、花梨がメインのお話です!
◇◇◇
「なんで? って、これは何のために描いた絵なの?」
「何って、スタンプラリーの宣伝のために……」
「そうだけど、失礼、言いかたが悪かった。なら、このアニメの視聴者の大半を占めるのは?」
今回、会社でタイアップしているアニメは恋愛モノの少女漫画が原作で……。
「小学生、です」
「だよね。なのにこのポスター、確かにキャラクターの女の子は可愛く描けている。けれど視線はそっぽを向いていて、何を見ているのかわからない。ハッキリ言って、花梨ちゃんの‘好き’にしか意識が行っていなくて、お客さまの興味を最大限に引き付けられないんだ」
「だから、何が言いたいんです? カメラ目線で描けばいいんですか?」
言いたいことは端的に言ってよ。こっちは何時間も作業ぶっ通しで疲れてんのにそれをボツって最初からやり直しとかマジ有り得ないし。てかポージング指定があるなら最初から言えっつーの。
「そうだね、だけどそれを理解したところで、現段階では何か物足りないイラストになりそうだし、他の業務もやらなきゃだから、今回は〆切を3出勤日後のラストまで伸ばしておくよ。駅長には僕から言っておく」
何? なんなの? 小学生向けと大人向けのアニメじゃ何か違う? 先月に深夜アニメのポスター描いたときはこんな感じでオッケーだったじゃん。
◇◇◇
あぁ、マジか。マジでやり直しか。自前で描く鉄道会社のキャンペーンイラストなんてぶっちゃけそんなに凝ったものは要らないんだけど、松田さん、私がイラストレーターとしてベストクオリティーの仕事ができるように〆切を伸ばしてくれたんだ。
それに、お絵描きに没頭しても許される職場なんて、社内でもこの駅くらいだよね。他の職場はアナログで作画したのをPCに取り込んで加工してるらしい。27インチの液タブがあるだけでも儲けもんだわ。
電話ボックスくらいの狭いシャワー室。座るスペースは無く、立ったままぬるま湯でトリートメントを流しながら、鬼の中にあるやさしさに気付いた深夜1時。これから3時間寝て、また仕事。父がフリーのアニメーターでボロアパート育ちの私は、安定収入を求めてこの会社に入ったけど、日勤あり24時間超えの徹夜ありの不規則な勤務体系は心身ともに削がれる。それでも父より労働時間は短いし、基本給保証があるから辞めない限りは収入が得られる。
とりあえず、ほんとマジ疲れたわ。きょうは人身事故とかトラブルがなかっただけ良かったけど、イラストのリテイクはダメージでか過ぎ。
「はぁ、このスレンダーで出るとこ程よく出てる花梨ちゃんを貰ってくれる王子さまはいないかなぁ」
疲労が一定のラインを超えると恋人欲しさが急上昇する。でも相性とか色々難しいことがあって、趣向とか価値観がフィットしない彼氏は徐々に重荷になるって、誰かが言ってた。
まぁいいや、出会いの気配なんて微塵もない私には当面無関係な話。いまは1分でも長く寝ることを考えよう。んで、私のプライドに懸けて最高のイラストを描く!




