企業絵師かりん!
「やったー! 描き上がったー!」
やばっ、改札口に聞こえちゃう。
はっとして、口を塞いで息殺す。
デスクから見て右斜め前の改札口ではほかの社員が接客中。ICカードの入場履歴を強制リセットしている。日勤でもこんな時間まで働いている人はたくさんいて、常日頃なんだかなぁと思っている。
今ごろ本牧さんは未来ちゃんとあんなことやこんなこと、えりちゃんは独りベランダでしみったれながらお酒でも飲んでるのかな。
22時過ぎ、スタンプラリー用のポスターイラストを描き上げた私は、事務室の液晶タブレットを前に達成感で満ち溢れていた。なんやかんやで期限に間に合わせちゃう花梨ちゃん天才!
「なんだ、できたのかい?」
デスクの背後にオジサンの気配。
「松田さん! そうです! 後は明日、駅長に見せて承認もらえれば」
回転イスに座ったまま松田助役を見上げ、ドヤ顔で完成イラストを見せつける。
「あ、これはまずい……。えりちゃんに見せながら描いた?」
「え……?」
見せてない。このイラストは誰にも見せてない。けどどうして? 1からやり直し? 簡単に言うけどイラスト描くのってすごい時間かかるんだよ?
達成感はみるみる曇り、疲れきった頭から血の気が引いてクラクラし始めた。
「なんでですか!? ロリ巨乳とか、禁止事項には触れないようにちゃんと描きましたよ!?」
うちの駅や会社で公式に掲げるキャラクターにはロリ巨乳、ふんどし、性的部分の強調を原則禁止している。つまり普通に服を着ているキャラクターをどれほど魅力的に描けるかが勝負。
だからメッチャ健全に可愛くに描いたのに、どうして!?
お読みいただき誠にありがとうございます!
好評な花梨のお話です。作者とはかなり異なるタイプのキャラクターなので、執筆していて新鮮な感覚があります。今後ちょっと胸キュンな展開があるかも……!




