夏の夜のあぜみち 後編
いま本牧さんと並んでいる場所は、実家すぐそばの、ミルキーウェイがきらめく畦道。
私を育てた、地元住民以外はほとんど誰も来ないこの場所に彼がいるなんて、なんだかとても不思議な気分。
彼女に対する嫉妬心はまだ抜けないけれど、昨夜の星空の下よりはずっと晴れ晴れしていられる。
どうかこの先も、彼がここを訪れる機会が何度もありますように。
けれどもしそうなったら、彼女の無念が伴うわけで、我欲と愛他が複雑に絡んで頭痛気味になる。
「どうしました?」
「あ、いえ、ちょっと考えごとをしていました」
彼はちょっとした心持ちの変化に敏感で、ときどき心配してくれる。きっと常日頃周囲に気を配っていて、声かけ頻度はしつこくない程度に加減している。私もそれくらい気の利いた大人になりたい。
「お、あそこが私の実家です」
「え、森しかありませんよ?」
「あ~、雨戸を閉めているので視力によっては見えないかもしれませんね。私、2.0あるので」
「そうですか~。あいにく僕は1.5しかないもので」
「ん、それだけあれば見えるはずですよ? お友だちは0.5しかありませんけどこの位置でぼんやり見えるって言ってました。ちょうどこのくらいの時間に」
「へぇ……」
言って、彼はきもち実家の方角から顔を逸らし、やや右を向いた。
「あ! もしかしなくてもお家が見えないフリしてますね!? 私を森の野人とでも言いたいんでしょ!? 確かに‘杜の都’育ちですが森の住人ではありません!」
「フッ、バレちゃいましたか」
「まったく! 私に歳相応の知力と精神が備わってないからってオモチャにして。ほら、もう夜道を怖がらなくていいから速く歩いて!」
言われると、彼は「ははは」と恥ずかしそうに誤魔化し笑い。
よし勝った! 初めて本牧さんに勝った!
あ、こういうところがお子ちゃまなんだ……。
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この作品は拙作比では更新頻度高めですが、Twitterで源まめちちさんが積極的に宣伝協力してくださるので、ケツに火を点けられている感覚で、酷い出来のものを出さないよう気を付けながら執筆しております(;・ω・)