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未来がずっと、ありますように  作者: おじぃ
仙台帰省・宮城の旅4
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夏の夜のあぜみち 前編

 コンクリートの台座に鉄パイプと停留所名が記された丸い鉄板のポール。いかにも地方な感じのバス停に、僕らは降り立った。その瞬間、山のひんやりした空気に全身を包まれた。


 バスが発車してエンジン音が聞こえなくなってから他の自動車は現れず、辺りは木々のざわめきと虫やかえるの声しか聞こえない。なんて静かな空間だろう。鎌倉でも山間部の勾配が多い地域は夜になると静かだが、両サイドが山を切り開いた斜面になっているため、この場所のように田園風景が広がる開放感はない。


「こ、ここが、ここが仙台?」


 衣笠さんはキョトンと上目遣いで僕と目を合わせている。


「ミッドステーションにびっくりした私の真似ですか? そうです、ここも仙台です!」


 衣笠さんは胸を張って言った。何が出るかわからない暗闇で、よくもこう平然としていられるものだ。


「そうですか。あの、衣笠さんのご実家は……?」


 日々の業務の中で会社のお偉方に反抗するより遥かに度胸の要る衣笠さんのお宅訪問だが、危険な動物や強姦魔が潜んでいそうな田舎道からは一刻でも早く抜け出したい。衣笠さんが襲われる可能性はもちろん、強姦魔は同性愛者や痴女であったり、はたまたブツが収まりそうな穴のある生き物ならばなんでも構わず襲撃する場合もあるから、僕も衣笠さんを護衛する手だてのみでなく、自己防衛についても考えなければならない。


「ここから5分くらい歩いたところです」


 言って、衣笠さんは幹線道路から枝分かれした畦道あぜみちへ僕を促した。足元に注意しないとへびや蛙を踏んでしまいそうだ。


「祖父母に連絡してあるので、お食事の準備はもうできてると思います」


「あ、はい、ありがとうございます……」


「ふふっ、緊張してるんですか? 大丈夫ですよ。人を呼ぶなんてしょっちゅうなので」


「あぁ、えっと、それもそうですが、夜道、怖くないですか?」


「怖いですよ、いつもは。子どもの頃から何度通っても慣れません。でも、きょうは本牧さんがいっしょだから大丈夫です! さあ、行きましょう!」


「あ、はい」


 と返事をすると、衣笠さんは僕の手を引いて一歩、また一歩と、僕の様子を感触で確かめる。彼女はまるで連結したばかりの車両同士がしっかりつながっているかを確認するかのように、ゆっくり慎重に進んでゆく。


 僕も何かに躓かないように足元を確認しながら後を付いてゆく。まもなく砂利道に入ったが、中央と両サイドは自動車のタイヤに踏まれないせいか、タンポポやヨモギほか、高さ十数センチ程度の草が生えている。良かった、先ほどバスで通った道路が近く、行き交う自動車や遠くに見える大型店舗と思しき建物の灯りが微かに届いているせいか、足元が見えないほどの暗闇ではない。


 握った手の感触はやわらかく、力を加えたら砕けてしまいそう。


「ちょっと、休憩しましょうか」


「はい?」


 実家まで徒歩5分でしょう?


 少しばかり明るいとはいえ、確実に森に近付きつつあるこの場所で敢えて立ち止まり休憩とはいかがなものか……。


 まさか『休憩』とはホテルでするような大人の休憩を意味していて、つまり衣笠さんは、僕を誘っているのだろうか?

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