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未来がずっと、ありますように  作者: おじぃ
仙台帰省・宮城の旅4
58/334

不安要素を追加する女

「すみません、こんなにたくさんありがとうございます」


「いえいえとんでもない! 私のほうこそ挙式のために色々ご尽力くださって、感謝してもしきれません!」


 試着の末、ジーンズ、インナー、アウターをそれぞれ一着ずつ、計1万5千円をお買い上げ。泡風呂利用料の総額に匹敵するプレゼントをいただいてしまった。新米ウエディングプランナーの相場として手取り給与は推定18万円。家賃は7万円だが会社の住宅補助制度があるので半額と聞いた。他に光熱費や交際費など色々とかさむのが社会人というもの。


 これは絶対にお返しをしなくては。


 衣笠さんの誕生日は11月22日と、スマートフォンでアドレス交換をした際に知った。僕はメールアドレスと電話番号しか入力していないから、彼女が僕の誕生日を知る術はなく、さきほどようやくフェアに個人情報を共有できたと安堵あんどしたところだ。


 恋人でもない男に贈られて喜ぶ万円単位のものとはなんだろう。7年後にはこの世に存在しないであろう僕だから、なるべく彼女の記憶に残るようなものは避けたい。商品券とか、消耗品がいいかな。



 ◇◇◇



 衣笠さんの実家最寄り、長町駅に到着。仙台市太白区の長町副都心に当たるそこは、仙台駅前ほど賑やかではないが、高層マンションやコンビニエンスストアなどが建ち並び、東北本線と新幹線が並行する高架線の下を大通りが貫いている。


 路線バスに乗って、二人掛けの座席に腰を下ろす。ほとんどの席が埋まっている車内で、人々は都心と同じく何かに取り憑かれたような目でスマートフォンの画面に照らされていた。


 見慣れぬ車種、座席の背もたれに掛けられた白いカバー、ひと昔前のLED式運賃表……。路線バスという乗り物は地元のにおいが漂うもので、僕は本当に衣笠さんの実家に招待される実感が湧いてきた。


 衣笠さんが実家に招待してくれたイコール僕に好意を抱いているというのは早とちりで、純粋に人をもてなしたい性格であることは初対面時に確認済み。そう理解していてもやはり異性の実家という場所は同性のそれにお邪魔するより緊張するもので、特にお父さんやお祖父さんは恐怖の対象だ。


 やがて乗客は数人ほどしかいなくなり、いつの間にか片側二車線の大通りから一車線の狭い道に入り、カーブが続く上り勾配のそこを慣れたハンドルさばきで快走していた。車窓の街灯りは数百メートル先のガソリンスタンドのぼんやりしたオレンジしかない。


 しばらくするとバスは平野の直線道路に出て、アナウンスが次の停留所の名を告げると、彼女は降車ボタンを押した。


 ちょっと待って。民家なんかどこにある? 見た感じ、少なくとも半径2百メートルには田んぼと雑木林ぞうきばやししかないんだけど……。


 これはどういうことだ? まさかバス停から数十分歩くとか? 田舎なら十二分に有り得る。しかし街灯が照らす住宅地で育った僕にとって、人気ひとけのない夜の田舎道はたとえ二人行動でも恐怖でしかない。闇の中から出没するのはウサギかクマかイノシシか、はたまた得体の知れない何かか。


 ただでさえ衣笠さんのご家族との対面に緊張している僕に、斜め上から新たな不安要素を追加する女、未来。かなり間抜けで天然だからといって、色んな意味で侮れない。

 お読みいただき誠にありがとうございます!


 本日8月2日は悠生の誕生日ということで、記念投稿となりました!

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