未来の姉貴
わああああああ!!
また言ってから後悔すること言っちまったあああ!!
実家に泊まりませんかって、これじゃまるで交際相手を紹介させてくださいみたいな言い方だっちゃ!! 違うそうじゃない!! せっかく遠い仙台まで来たっけ星空でも眺めながらのんびりしてってくださいって意味だけどそれを上手く伝えられねかったあ!!
でも、まぁいいかな。よく他所の人が泊まりに来るのは事実だし、それが今回は本牧さんっていうだけの話。意中のひとだから意識してしまうだけで、これまで何度もしてきたことだ。‘一応’男性を泊めるのだって初めてじゃない。
◇◇◇
2年前の8月の夕方、仙台市営地下鉄の愛宕橋駅前にある自販機コーナーで都ちゃんのお友だち(ヤンキー)が酔い潰れて倒れているのを通りすがりにたまたま見かけてしまったときも、正直えらい怖かったけど家まで連れ帰って浴室に寝かせてあげた。私や家族も布団に寝かせて吐かれたくなく、浴室ならなんとかということで。
愛宕橋駅から家までは遠く、広瀬川という大きな川を渡り、大通りに出てから脇道に入る。そこから更に緩やかな勾配を20分ほど上って行く。休めるところといえばラーメン屋さんくらいしかない狭い通りで、バスは時間あたり1本。次の便まで50分待ち。お酒臭いし意識が朦朧として余計に重たい男のひとの手を引いて歩くのはもう勘弁。
翌朝10時過ぎ、朝のお庭の手入れや朝食とそのお片付けが終わり、のり巻きあられをおともにじいちゃんばあちゃんとお茶をするころに目覚めた彼は、居間の襖の前に颯爽と現れ、
「未来の姉貴!! 俺を舎弟にしてください!! と土下座してきた」
やめて!! 私はそういう世界の人間じゃない!! と焦燥しつつ、
「いやいや、私なんかひとの面倒をみる器じゃないので!!」
と断ったら、
「流石未来の姉貴!! その謙虚さ流石っす!!」
と余計に懐かれてしまったので、
「チッ、しつけえなあんた、あたしゃ弟子は取らねぇ一匹狼なんだ。代わりと言っちゃあなんだが、マブダチの都ちゃんを守ってやってくんねぇかよ?」
わあああっ、ハードボイルドにキメたつもりだけど我ながら下手な芝居だぁ。どうしよう殴られる蹴られる!
後悔していると、
「流石っす、ダチ想いの姉貴マジ流石っす! わかりました! そういうことなら俺に任せてください! 都は俺にとっても大事な仲間なんで全力でお守りします!」
「おう、任せたからな。その代わり、都ちゃんに何かあったら承知しねぇぞ」
よ、良かったぁ。何もされなかった。これにて一件落着。
◇◇◇
本牧さんを実家に誘ってから過去を想起するまで1秒。あぁ懐かしき日の思い出。他にも街で拾った知り合いのおじさんを何人か泊めたけれど、ヤンキーもおじさんたちも男性というよりはマツコ・デラックスみたいな性別の枠にとらわれない人物として認識しているので、異性との接触としてはノーカウント。
「はい、衣笠さんとご家族の皆さまさえよろしければ」
「ふぉふぉふぉ本当ですか!?」
どどどどうすんべぇ!? 本牧さんが私の家に!? 自分から言い出したこととはいえまさかオッケーしてくれるとは思わねかった!
「はい、是非。それであの、誠に恐れ入りますが車内では声のトーンを控えめにしていただければと」
「あ、はいっ、失礼いたしましたっ……」




