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未来がずっと、ありますように  作者: おじぃ
仙台帰省・宮城の旅3
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未来、興奮が乗じて

「あー楽しかったぁ! また来たい!」


 衣笠さんの瞳にいつもの元気が戻り、とても満足げな表情だ。


「僕も新しい世界を知れて楽しかったです。また来れるといいですね」


「ぜひぜひっ! 毎週でも来たいくらいです! あイタッ!」


 ごふっと鈍い音がした。夕焼け空の下、石巻駅へ向かう歩道での出来事。話に夢中の衣笠さんは前方不注意で郵便ポストに顔面をぶつけた。僕は彼女が激突する寸前にポストに気付いたが、注意喚起するには時既に遅しだった。これが本当のイタイ女というものか。


「……さすがマンガの聖地! 懐かしい単行本コミックスも読めたし満足まんぞく!」


 鼻を真っ赤にしながらも、まるで何事もなかったかのように歩き出す衣笠さん。鼻を電柱にぶつけたら意識が飛びそうな鈍い痛みが続くはずだが、意地を張っているのか、それとも痛みなどどうでも良いくらい喋りたいのか。いずれにしろ彼女は屈強な精神の持ち主だ。


 僕らは先ほどまで、数々のスーパーヒーローを世に送り出した石巻ゆかりの故人漫画家が生み出した作品をメインとしたミュージアムで、漫画をはじめ、アニメや特撮といった創作の世界に浸っていた。彼の代表作といえるバッタをモチーフとしたスーパーヒーローシリーズは現在でも毎週日曜の朝9時から全国ネットで放映されており、世代を超えて愛されている。


 館内にはベテランや中堅の漫画家による作品の単行本を揃えた読書スペースがあり、少年、少女、ヤング、人情ものなど数多のジャンルが所狭しと揃えられており、隣室で営業している食堂で食事を摂りつつ、一日中読書をしていても飽きそうにない。僕はコンビニ店員とその近所に住む人々のふれあいを描いたハートウォーミングな漫画を選び、衣笠さんは満月を探し求める純愛モノの名作少女漫画を選んで、互いに交換しながら回し読みしていた。


 他にも漫画やアニメの製作秘話や、東日本大震災の写真付きの記録などの展示があり、充実した学びの時間となった。きっと絵描きをしている成城さんや百合丘さんが来場したら、僕よりもずっと興味深く閲覧するだろう。


 石巻には他にも見どころがたくさんあるだろうが、もうじき夜が訪れ、施設は既に閉まっているだろう。次回は仕事のついでではなく、休日を利用して訪問したい。


 石巻駅に着き、僕らは仙台行きの仙石東北ラインに乗った。列車は間もなく発車して、ブルブルとディーゼルエンジンの音を響かせながら夕焼けの平野を駆けてゆく。尻にフィットする最高水準の人間工学に基づいたマリンブルーのバケットシートに腰を下ろし、ボックス席ならではの旅情感に浸る。とはいえ東北地方ののどかなイメージとは裏腹に内装は首都圏の新系列電車とほぼ変わらず近代的で、車内放送も首都圏の主要路線と同じく女性声優による二ヶ国語の透き通った録音音声が流れる。


「あ、あの、本牧さん、今日はもう鎌倉へお帰りでしょうかっ?」


「いえ、長めに休みを取っているので、これから空いているホテルを探して明日は仙台を観光する予定です」


 この列車の仙台駅到着は19時台だし、これからお食事でもといったところだろうか。


「そそそそうですかあっ! で、でしたら今夜は私の実家にお泊りになってはっ!? よくお客さんを泊めるので客間がありますのでっ!!」


 通りの良い衣笠さんの声が、ディーゼル音のこだまする車内に響き渡る。


 それなりに気の知れた衣笠さんとはいえ、女性の実家に宿泊か。さて、どうしたものか……。

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