どんと来いですこんにゃろう!
「行きましょうか」
ショックを受けている衣笠さんの様子を見つつ、被災家屋に刹那の黙祷。家主は無事と願い、あくまで、もう役目を果たせないであろう家屋や家財道具に哀悼の意を表した。ただしこの一帯のどこか重く静まり返った空気は、どうしたって楽観を良しとしない。
このまま前進すれば近道だろうけれど、この先にもまだ同じような家屋があるかもしれないから、来た道を引き返す。先ほどの大橋を渡ってしばらく川沿いを進み対岸を見遣ると、やはりそういった家屋は数棟あり、西陽と潮風を浴びながらレースのカーテンがむなしくなびいていた。
「ごめんなさい。私、取り乱しちゃって」
「いえ、僕のほうこそ場の雰囲気で馴れ馴れしくしてしまって、失礼しました」
「あぁ、いえっ、そんなことないです! 私のことは不出来な部下だと思って好きなように接してもらえれば!」
「へぇ、じゃあ厳しくしないとなぁ」
本当の部下である百合丘さんの面倒すらほぼ成城さんに押し付けて、実際のところ厳しいもユルいもない僕は、わざと不敵な笑みを浮かべて衣笠さんの反応を窺ってみた。
「ど、どんと来いですこんにゃろう!」
「ぷっ……」
拳で胸をポンと叩き、若干戸惑いつつも汗が飛びそうなほど必死な表情で僕を見る衣笠さんがおかしくて、僕はまたも噴き出してしまった。このひと、仕草や反応がいちいち面白い。こんにゃろうってあなた、いつの世代ですか。
「さぁ、せっかく石巻に来たので少し付き合ってもらいますよっ!」
被災地の現実を胸の奥にしまい、気分を切り替えて瞳をきらめかせる衣笠さん。どこに行こうとしているかは想像がつく。僕も気になっている場所なので、時間が許す限り楽しませてもらおう。




