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未来がずっと、ありますように  作者: おじぃ
仙台帰省・宮城の旅2
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石巻の街

 石巻駅に到着した仙石線を降りると、同じホームの向かい側に仙台行きの快速列車『仙石東北せんせきとうほくライン』が発車を待っていた。発車まではまだ時間があるようで、車内に乗客の姿はない。仙石東北ラインは仙台と石巻を東北本線と仙石線を経由し、同区間の所要時間を仙石線のみ利用より短縮した列車の愛称。すべての列車が蓄電池とディーゼルを動力源とする新型ハイブリッド車両で運転されていて、通勤通学、観光にとても便利な代物だ。


 改札口には石巻ゆかりの故人漫画家が生み出したスーパーヒーローのモニュメントが数体、訪れる人々を出迎えてくれている。衣笠さんは彼らの姿を見て、意気揚々とそのキャラクターたちが登場する作品名を言いながら目を輝かせていた。


 女の子のお人形遊びに付属するおもちゃのお家のようなデザインの駅舎を出ると、目の前には小さなタクシープールやバスロータリーがあり、それを挟んで市役所のビルや居酒屋チェーンなどが軒を連ねる綺麗に舗装された駅前通りがある。


 ここ、本当に津波が押し寄せたのだろうか……?


 そう思えるくらい街は綺麗で、昭和時代に建てられたと思しき建物も損傷したようには見えない。しかしきっと、補修は大変だっただろう。


 ぐぅ……。


 駅前通りの横断歩道で信号待ちをしているとき、そんな音が聞こえた。人通りも車通りも少ないから、小さな音もよく聞こえる。


「お腹、空きましたね」


「は、はい……」


 彼女は気まずそうに頬を赤らめ、俯いて自らの腹を気にした。


 どこか女性でも入りやすい雰囲気のお店はないかと、途中で土産屋に寄って自宅に配送依頼をしつつ街を歩く。若い女性の店員さんは気さくで話しやすかった。


 歩道に塗炭の雨よけが設けられた昔ながらの商店街、大正時代を想起させる異国情緒ある蔵のような建物。衣笠さんもあまり慣れた街ではないのか、キョロキョロと周囲を見渡しては感心している。なんだか可愛い。


 夏の日差しが照り付ける中、しばらく行く当てもなくとぼとぼ歩いていると、右手に中華料理店が現れた。おそらくつい最近開業した店で、一般的なグレーの住宅にオプションを加え店舗用に仕上げたものと見られる。


 横開きの扉をそっと開くと、白壁とフローリング、焦げ茶の木の扉数枚。やはり一般住宅のような内装の廊下があり、左の部屋から「いらっしゃいませー」と、赤いエプロンを掛けた中年女性が出迎えてくれたので、僕らは「こんにちはー」と返した。どうやらそちらが食堂になっているようで、土足のままそこへ通された。


 食堂は扉の仕様に合わせたのか堅牢けんろうな焦げ茶の4人用テーブルが数卓。ベネチアングラスのスタンド照明やその他小物類が出窓の際に飾ってあり、女性でも居心地の良い清潔でお洒落な空間が演出されている。


 他の中華屋さんや居酒屋などでもよくある壁に貼られた短冊のようなメニュー表を見ると、横浜風の中華そばをメインとした麺類、ギョーザなど、宮城に居ながら横浜で馴染みのあるメニューが揃っていた。


 二人揃ってザーサイ入り中華そばを注文し、ちびちびとお冷で口や喉を潤す。厨房は食堂のすぐ隣にあり、つまるところ一般家庭のキッチンとリビングの構造と同じで、相互の空間は藍色の暖簾のれんで仕切られているのみで扉はない。


「あの、本牧さんは具体的に工場でどんなお仕事をされていたんですか?」


 駅員である僕の異色の経歴が気になっていたのだろう。衣笠さんはどもりつつも意を決したような雰囲気を醸し出し僕に訊ねた。特に身構えるような質問でもないと思うが……。

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