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未来がずっと、ありますように  作者: おじぃ
仙台帰省・宮城の旅2
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未来の本性

 きょうの私は、ちょっと機嫌が悪い。


「いやいや遠路遥々ご苦労であった!」


 お目当ての電車を管理している事業所で私たちを出迎えてくれた高山たかやま人道ひとみちさん。小太り体型、身長は私と同じくらいで男性としては少し低め。屋外で電車の点検をするからか、それとも生まれつきか日サロ通いなのか、肌は褐色。細く鋭い目はきっと、小さな故障の芽も見逃さないのだろう。仙台の鉄道を支えてくれてありがとうございます。


 高山さんは高校時代の3年間、本牧さんのクラスメイトだったそうで、お互い別の大学へ進学し、4年後の入社式でバッタリ再会したという。


 私と本牧さんは内外壁に黄ばみや黒ずみのある少し古びた事務所棟の応接室に通され、電車を視る前に休憩をと、ソファーに座らせてもらい冷たい麦茶をいただいている。廊下は蒸し暑かったけど、室内は程良く冷房が効いていて気持ちいい。


「童貞は捨てられた?」


 コップ一杯の麦茶を一気に飲み干した本牧さんが、爽やかな笑顔で高山さんに問いかけた。


「ワシはそんな破廉恥はれんちなことなど興味ないと何度も言っておるだろう! だいたい女子おなごるというのに何故なにゆえそのような話題を振れるのだ。貴様にデリカシーというものはないのか!」


 そうそう、良く言ってくれました高山さん。同窓生との再会が嬉しいのはわかるけど、女の、オ・ン・ナの! 私の存在を忘れられては困る。


 しかし私が機嫌を損ねている原因はこれよりもっと前、仙台駅で落ち合ったときの話。


 私は本牧さんと二人で行動できるのが楽しみでウキウキしていたのと同時に、これはあくまでお仕事で、彼には恋人がいて、彼女とじゃれ合ったり愛を確かめ合ったりするさまを想像するだけで胸が苦しくて、頭がズンと重たくなって、そんなさなか、もしかしたら恋人なんていないのかもと根拠のない希望が不意に湧いてきて、モヤモヤしてどうしようもない状態がずっと続いて、いざ駅で会うときが来たらいつもより緊張してどうしようもなくなって、本当に苦しかったのに、彼はそんな私の挙動不審な態度に気持ちを知ってか知らずかプッっと鼻で笑った。


 このまえ喫茶店の前でカラスに糞を落とされてパニックになったときは笑われても『可愛い』と愛おしい感情が芽生えたのに、恋人持ちの疑念を抱くと、嘲笑われているようで不愉快だった。


 ことのつまり私は、彼が私以外の女性ひとと育む幸福を、祝福できない。それをはっきり自覚してしまった。


 いったい私は、何に腹を立てているのだろう? 答えは簡単、満たされないすべて、すっきりしないことのすべて、そして、最悪のシナリオが事実と判明したときの恐怖が、怒りへと変換されているのだ。


 あぁ、だめだだめだだめだっちゃ! 今はお仕事中で、お客さまを幸せにするために横浜の職場を離れて仙台まで電車を視察しに来たのに。まだまだ公私混同の癖が抜けない!


 電車、電車でんしゃガタンゴトン! 今は電車のことだけ考えていよう! 機械のことを考えていれば余計な感情は芽生えないはず! 電車は詳しくないけど今だけは電車女になってやる!


 本牧さんとふたりで、のんびり電車の旅でもしてみたいなぁ……。

 お読みいただき誠にありがとうございます!


 第40話に源まめちちさんによる駅社員3人のイラストを掲載させていただきましたので是非ご覧ください!


 今回は特に力作だそうです!

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