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未来がずっと、ありますように  作者: おじぃ
仙台帰省・宮城の旅

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今日の酒は美味かった

 都ちゃんが二度目の号泣をしてから、私は1杯目のビールと、怖いもの見たさでコーヒー牛乳と焼酎をミックスした謎のお酒の計2杯を飲み干した。謎のお酒は焼酎がコーヒー牛乳のこってり感を緩和して意外と飲みやすかったけど、牛乳を含むので酔いが回りやすく少し意識がクラクラしている。


 そんな中、私はついさっきまで1時間ばかりカラオケに付き合わされた。都ちゃんは失恋ショックなのか西野カナの曲を中心に、私はいつも通りアヴリルラヴィーンやヒラリーダフといった洋楽を中心に歌っていたら「相変わらず舌使いがエロい!」とオジサマさながらの大絶賛をされた。私の気はまだおかしくなっていないようだけど、歌ったら余計に血行が良くなって気持ち悪くなってきた。


 居酒屋やカラオケボックス、風俗店など、様々な享楽きょうらく施設が軒を連ねる東北地方で最も栄えた歓楽街、国分町こくぶんちょうから仙台駅へ戻る途中の混雑した地下鉄車内で、都ちゃんは「おぷっ、おぷおぷっ」と、あわやキラキラパニックに成りにけるかもな息遣いで私の肩にあごを乗せ、恐怖のサブウェイタイム。


「うぇぷぉっ、うぷるぉ、ぷふぁっ……」


 あっ、やめて、もう息を吹きかけないで。酒臭さで今度は私がっ……。



 ◇◇◇



「どーれにしよおかな天の神様の言う通り!! 決めた!! 東北とうほく本線の白石しろいし行き!!」


「違うそれ私が乗る電車! 都ちゃんは反対方向だっちゃ! わかった!?」


「うわああん未来なんかこわいー!!」


 どうにか無事に地上へ這い出て辿り着けた、まだ18時半の仙台駅在来線改札口。べろんべろんに酔っ払った都ちゃんはいくつもある路線ごとに横並びしている発車案内のLED表示器を端から順に指差しながら乗る列車を選んだ。通常、乗る列車はロシアンルーレットではなく自らの目的地に合わせて選ぶもの。お願いだからこんな時間に意味不明なこと叫ばないで。


 でも、普段はボケサイドの私がツッコミに回れるのは、ちょっと嬉しかったりする。


 都ちゃん、自分の住所もわからなくなるくらい酔ってるんだ。乱暴な人と付き合ったらコインロッカーの脇に置き去りにされそう。普段は内気な私でさえ、頭にちょっぴりアルコールを含んだ血が上って投げ槍な態度になる。


「男はなあ!! 不倫しても形が変わんないからバレにくくていいよなぁ!! 私は暴いてやったけどな!!」


「な、なに、形ってなに!?」


 もう! お願いだからちょっと静かにしてて!


「なにってナニだよわかってるじゃんいま自分で言ったじゃん!! 女は乗り換えると形が変わるから気付かれるんだってよ!! 言っとくけど私は同時に二人以上とは付き合ってないから!!」


 これってもしかして下ネタ!? もう余計に恥ずかしいからやめて!!


「あぁうんわかった! 都ちゃんは清純なんだね! いい子だからちゃんとお家に帰ろうね!」


 私は他の人にぶつからないようにとか、階段から転げ落ちないようになど普段以上に注意しつつなんとか都ちゃんを正しい方向の電車に乗せ、満席のため座席のないトイレ脇のスペースに壁ドンして無理矢理立たせた。壁ドンの衝撃で車両は弧を描きながらユサユサ揺れている。


 都ちゃんは相変わらず意味不明な発言を続け、私が代わって周りの乗客や、目の前にある運転台のガラス越しに客室内を見ている車掌さんに「ごめんなさい! すみません! 申し訳ありません! 我慢できなくなったらトイレに閉じ込めるか何処かの駅で無理矢理降ろしてください!」と言って深々と頭を下げた。


「今日の酒は美味かったあ!! 未来と再会できて良かったよお!!」


「う、うん、ありがとう。またね都ちゃん、無事に帰ってね」


 そう言われてしまうと、仕方ない、また付き合ってあげてもいいかなって気分になる。とりあえず今は、都ちゃんが無事帰宅できるかが心配だ。


『まもなく、1番線から、東北本線、小牛田こごた行きが発車いたします』


 ワンコーラス30秒、優雅な曲調の仙台駅と隣のあおばどおり駅限定の発車メロディーと案内放送が流れ始めたところで電車を降りようと、大声で名曲『旧友再会』を歌い出した都ちゃんの肩から手を放そうとしたら、不意にギュッと抱き寄せられて、


「ごめんね、未来の話聞くつもりが私のことばっかり喋って。幸せになってね」


 耳元で囁かれたその言葉に私は何故かハッとして胸が熱くなり、お酒の力で涙腺が緩んだのか、思わず口をつぐんで瞳を潤ませた。


「ありがとう。都ちゃんが素敵な人と出会って運命のお誘いを受けたら、私にプランニングさせてね」


 私も耳元で囁き、抱きしめ返した。その感触は本牧さんの肩とは違ってふわっとやわらかく、都ちゃんはオンナノコなんだと、実感せざるを得なかった。

 お読みいただき誠にありがとうございます。


 東日本大震災から5年となりました。


 未来が少しでも明るくなりますように。そう願って止みません。

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