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未来がずっと、ありますように  作者: おじぃ
窓口の混雑を緩和せよ
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置いてきぼりの悠生

「松田さんのラーメンだ。懐かしい」


 辻堂駅から電車で1駅3分、茅ケ崎駅から徒歩3分の高層マンション。その7階に、成城さんの部屋がある。松田さんは所謂マスオさん状態。


 南と西に窓のある角部屋は、いま正に富士山の左側へ沈もうとする陽に当てられている。


 大きなふかふかのソファ、絨毯、ガラス張りの座卓に大型テレビ。同じ役職の僕には手の届かない代物を、兼業イラストレーター成城英利奈は手にしている。これを目にすると、一つの職に囚われては勿体ないと嫌でも実感する。松田さん所有と思しきアイテムは見当たらない。


 そのソファーの後ろにはダイニングテーブルがあり、松田さんはそこに醤油ラーメンを並べている。龍の絵柄に双喜紋そうきもんが入った一般的な丼だが、この空間にはミスマッチ。でも、それがいい。


「さあ、食べようか」


 久しぶりに元駅メンバーが集まって、いただきますと手を合わせ、ラーメンをすする。ハードな勤務に染みる少し濃いめの鶏ガラスープも懐かしい。


 黙食も、忙しい駅ならでは。早く食べて15分ほど仮眠を取ったり、スマホをチェックしたり、ダイヤが乱れていると休憩時間買い上げになったり、常に極限状態で働く現業社員らしい食べ方。


「ごちそうさまでした」


 僕が最初に食べ終えた。


「早いね、なんだか懐かしいよ」


「またこのラーメンが食べられるなんて思ってなかったので、さっきオムライスを食べたばかりなのにあっさり完食できました」


 と、僕が言っている横で同じくオムライスを食べたばかりの百合丘さんは少し苦戦している様子。しかし予めその旨を伝えていた彼女に盛られたラーメンの量は一般的な中華そばの小盛程度。


 それを他所に、続いて成城さんが僕と同じくらいの量を完まく。百合丘さんが「ごちそうさまでした」を言ったのは、それから10分後だった。


 その後、チャーシューを食べたせいか百合丘さんはブヒブヒ言いながらソファに横たわり、我が家のようにくつろぎ始めた。彼女はよくここにおじゃましているらしい。


 イラストを描くためか、成城さんは自室に入り、百合丘さんがそれに続いた。


 二人とも、自分の道を歩んでいるんだな。


 僕だけ置いていかれている。そんな実感が視覚的に伝わってきた。

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