生き返る花梨
「あぁ、生き返る……」
4人がけ、赤いチェック柄のテーブルクロスが敷かれたテーブル席。僕の正面に座る百合丘さんがクリームソーダを吸い上げ、徐々に瞳のハイライトが戻ってきた。
百合丘さんの希望で辻堂駅直結のショッピングモール内にある洋食店に入り、オムライス、サラダ、スープとクリームソーダのセット約2千円をたかられた僕も、彼女と同じメニューを食している。思わぬ出費だ。しかし美味いから良しとしよう。
「やっと本牧さんの表情が見えてきた。もしかして、だいぶ疲れてます?」
「経理は向いてないとつくづくね」
「インテリアデザイナーみたいなことやりたくてうちの会社入ったんですもんね」
「そうだね、駅とか車両の内装をデザインしたくて入ったんだ。百合丘さんのクリエイター業は順調?」
「相変わらずまあまあそこそこな感じです。会社の査定は気にしないで最低限の業務と5Sだけちゃんとして、自分の時間をしっかり確保しながらやってるので、至って健康的な生活だと思います。知らんけど」
そこは知っていてくれ。
日本総合鉄道の人事査定はポイント制で、最低限の業務をこなしていれば中程度、加えて担当範囲外の清掃を自発的かつ無断で行なって尚且つそれが偶然通りかかった評価者の目に留まる、会社が指定した通信教育の受講等の定型外の行いがあると加算されるシステムになっている。
僕が入社したころにはその制度がなく、評価は裏帳簿のみであったが勤務態度の良し悪しに関わらず給料にはほぼ反映されなかったので、稼ぐ手段が増えたといえばそうである。
ただ、内勤部署は職務を迅速かつ正確にこなす、運転職場であれば安全かつ無駄のない運行ができる、検修、いわゆる車両の整備部門であれば車両や部品の解体や組み立てが丁寧かつ効率的で、故障に強く見栄えの良い車両に仕上げた等の評価基準がなく、改善の余地はある。と、個人的に思っている。
5Sは職場環境改善の手法の一つで『整理、整頓、清掃、清潔、躾』の頭文字を取ったもの。
百合丘さんの場合、会社では並の給料をもらい、自営の創作で稼ぐライフスタイルなので、評価はあまり気にしていないということだ。いずれにしても無理をすると体調を崩したり事故を招くので、引き続き健康には留意してもらいたい。
あぁ、クリームソーダが染み渡る……。