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未来がずっと、ありますように  作者: おじぃ
はじめてのウエディングプランニング
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幸せの入り口って、こんなにつらいんだ

 本牧さんと松田さんに資料を見てもらってから3週間が経過し、7月最後の土曜日が訪れた。


 朝陽が眩しい8時半過ぎ。私はいま、出張と帰省を兼ねて仙台へ向かっている。


 先日本牧さんから連絡があり、なんでも結婚式に使える可能性のある電車が仙台の車庫で5年間まったく動かず眠っているとのことで、明後日に彼と二人で現物を見学し、サンプルとしてお客さまにお見せする写真やムービーを撮影させてもらう運びとなった。


 私は膝に鞄を抱え、鳩サブレ―やシウマイといったお土産を座席備え付けのテーブルに載せ、新幹線の始発駅である東京駅へ向かう電車の二階グリーン席からぼんやり外を眺めている。今日はオレンジと黄緑色の帯を纏った電車に乗っていて、対向車線を挟み一つ向こうの線路を並んで走る乗り慣れたスカイブルーの電車をぐんぐん追い抜いてゆく。


 普段乗っている電車は大船駅から本牧さんたちの駅がある湾岸エリアを経由する大回りルート。対していま乗っている電車は内陸部をショートカットし尚且つ停車駅が少ない最短最速ルート。両者は横浜駅で再び合流し、ちょうどいま並んだところだ。


 どこにいても、あのスカイブルーの電車を見る度に本牧さんを思い出す。


 あの電車は本牧さんが見送ったのかな? それとも松田さん? 百合丘さんか成城さん?


 本牧さんと成城さんって、どんな関係なんだろう。あれから皆さんと会う機会はなく、事実を確かめる機会もない。


 家を早めに出て横浜駅まであっちの電車に乗れば良かったかなと迷ったけど、そこまでするとストーカーじみてる気もするし……。


 4ヶ月ぶりの帰省は、げんなり重苦しい気分になってしまった。


 こんなことをしている間にも、本牧さんと成城さんは愛を育んでいるのかな。


 初めての恋、初めての失恋___。


 失恋と決まったわけではないけれど……。


 そう思うと、不思議なもので刹那に希望が垣間見える。


『お待たせいたしましたー。7番線から上野東京ライン普通電車新前橋(しんまえばし)行きが発車いたしまーす』


 ふと、発車ベルと駅員さんの放送が意識に飛び込んできた。他の駅は音楽が流れるのに対し、東京駅の東北方面乗り場だけは昔ながらのけたたましい発車ベルが鳴る。ということは、ここは東京駅……。


 いけない降りなきゃ!


 片側4ドアの普通車とは違いグリーン車は2ドアなので出口へ辿り着くまでに時間がかかる。既に東京駅から乗ってきた数人が座る席を選んで頭上の電子チケットリーダーにスマートフォンをタッチし、腰を下ろそうとしている。


 あわわわわ! 乗り越しちゃう! 同じ路線だからここで降りなくても乗り継げば仙台まで行けるけど普通電車の旅は時間がかかって大変だあ!


 本牧さんとならのんびり普通電車の旅も良いかもと思いつつ急いで荷物をまとめテーブルを畳み、転ばぬよう数段の階段を慎重に下りようやく降車した直後、電車のドアが閉まった。


 あぁ、エアコンの効いた車内から出ると暑いなぁ。


 本牧さんと成城さんのことが気になって、いつの間にか景色が意識に入らなくなっていた。よくスマートフォンや読書に夢中で乗り越す人がいるという話を耳にして、にわかに信じられなかったけど、納得した。


 もし本牧さんが誰とも付き合っていないとして、しっかりしていそうな成城さんと、間抜けなお子ちゃまの私のどちらを選ぶかなんて、考える間でもない。


 明後日は仙台で本牧さんと会うのに、なんともない表情で過ごせるかな。気持ちを露わにして不安を悟られたりしないかな?


 失恋するかもと思ったら、恋がだんだんこわくなってきちゃった。


 そうなんだ。幸せの入り口って、こんなにつらいんだ。私の仕事は、こんなこわくて苦しい気持ちを乗り越えた人たちの祝福でもあるんだな。


 私、もっと強くならなきゃ。まずは明後日に向けて、新幹線乗り場へ歩き出そう。

 お読みいただき誠にありがとうございます!


 2日連続の更新となりました。


 今回の未来の旅程は時刻表を見ながら上野東京ラインと新幹線の接続がちょうど良い列車に決め、リアリティーを演出しました。

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