324,未来、飯坂温泉に降り立つ
シュー、プシュー、シュー。
やけにゆっくり慎重に停車する福島交通飯坂線に揺られ30分弱、終点の飯坂温泉駅に到着。2両編成のノスタルジーな通勤電車。ゴツいステンレスの車体、黄色い座席。たぶん前世は東急電鉄。
2面1線の小さなホーム、改札口の前にはレンタサイクルらしき自転車がずらっと並んでいる。そして頭上には、この街の看板娘、けんか祭りが大好きで風邪をひくと弱気になる温泉の女神様が描かれた看板が提げられている。
ふほーっ、来た、ついに来た、イイザカオンセン!
頭上に下がる案内板は黒地に黄色や赤のまるみを帯びた文字。輝度の低い蛍光灯が照らす昭和風情が支配する駅構内。自動改札機はなく、磁気の無い紙のきっぷを駅員さんに手渡すスタイル。
階段を上がると駅ナカの八百屋さん、駅舎を出ると右に松尾芭蕉の像、その後ろに川が流れている。
駅前の横断歩道を渡って観光案内所に入ると、黄緑の法被を着た勝ち気な女の子のキャラクターパネルやその関連グッズがわんさか展示されていた。記念にキャラクターがプリントされたアクリルキーホルダーを購入。
案内所のおばちゃんからマップを受け取り街を歩く。
そういえば飯坂って、何があるんだっけ。
うーん……。
人通りまばらで、廃旅館もいくつかある。
ここは、私向きの温泉街かもしれない。
川を眼下に緩やかな坂が続くこぢんまりとした街。川から離れてもほとんど坂。
歴史情緒あふれる蔵、旧堀切邸、裏手の住宅地にひっそり佇む小さなコーヒー店。そこでアイスコーヒーとチーズケーキをいただいた。
飯坂温泉から少し北へ上がると我がふるさとの宮城県。だけど、まったく未知の世界なんだなぁ。
もう少しだけ、街を歩いてみる。こんどは川を渡ってアップダウンの激しいエリアに入った。こちら側にも温泉旅館がいくつかあり、夜だけ営業と思われる飲食店がぽつりぽつり。
裏道から急勾配をヘアピン式に上がって、街を一望できる愛宕神社に着いた。仙台の愛宕神社は宮司さんや巫女さんがいるけれど、こちらは小ぢんまりとした無人の神社。神様だけが私を見ている。
海もない、高層ビルもない、山と低い建物だけの明け広い景色。あの中に人が何人クマが何頭とか、そんなことを考える。
さて、これからが本番、温泉に入ろう。




