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未来がずっと、ありますように  作者: おじぃ
はじめてのウエディングプランニング
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午後3時の駅で

 自己紹介が終わったところで松田さんに資料を渡し、有人改札では成城さんが彼に替わって接客を始めた。


「はいはいなるほどねー。取り敢えず車両を手配できるかあちこちに訊いてみるよ。費用とか、詳細はまた今度見積もってから言うから、新郎新婦さんにもそう伝えておいてくれる?」


 早い。立ち話で事がサクサク進む。松田さんいわく、現物の資料を確認しないと企画自体の存在証明と内容把握ができないから敢えて駅に私を呼び、コピーを取りたかったという。鉄道会社の皆さんには手間をかけてしまっているけれど、とても助かった。うちの会社だけで背負っていたら今ごろどうなっていたか……。


 あとは朝比奈店長と鉄道会社の内勤の方で調整をして、私はしばらくの間、車両調達以外の段取りを組む流れになる。


「あー! うまく描けませんー!」


 ファイルやバインダー、PCといった事務道具一式が置かれたデスクが6台並ぶ部屋の奥。その壁際で、百合丘さんが作業に取り掛かっていた。そこだけは何故かPCの代わりに27インチのタブレット端末が鎮座している。


 興味を惹かれつつ百合丘さんを心配していると


「あれはポスター製作や画像資料を加工するときに使うんですけど、百合丘さんは作業に行き詰まったみたいですね。せっかくだから衣笠さんも見てみますか?」


 と本牧さんに促されたので恐る恐る、松田さんも一緒の計3人で百合丘さんの背後に詰め寄った。


「あ~、なんかな~。若者向けっていうの? お年寄りには向かない絵だよな~。俺くらいの歳になると銀座のホステスがセクシー衣装で出迎えてくれてるシーンのほうがいいな」


「うんとー、それは百パーボツになります!」


 百合丘さんが描いているのは女性駅員のイラストで、まだ背景も色付けもされていない段階のもの。50歳以上のお客さま専用のお得なきっぷを紹介するポスターを製作する初期段階と本牧さんが説明してくれた。


「ゆっ、百合丘さんってもしかして、絵師さんですか!?」


「いえ! 両親がアニメとか好きで、父はフリーランスのアニメーターで、アニメの絵以外にも水彩画とか色鉛筆画とか色んな絵を描けるのですが、私はなんというか、形の整い過ぎた絵しか描けなくて」


「そうなんですかぁ。でも私から見ればとっても上手です!」


「ありがとうございますっ! でも、宣伝ポスターを描くにはその内容やターゲットに見合ったタッチやレイアウトが必要で、他の駅の人たちも、イラストとは限りませんが、なんでホイホイ色んなタイプのポスターを作れるんだろうって、コンプレックスなんです。それに、何より私は、出入口にある成城さんが描いたポスターみたいなやわらかさが出せなくて、優しさが欠けてる事実を突き付けられてる気がするんです。ああああん!! 心のこもってないポスターのせいできっぷ一枚も売れなかったらどうましょおおおお!!」


「そんなそんな! 心が籠ってないなんてないです! こうやって一所懸命描いてるし、今のイラストだってとっても可愛いし、練習すればきっと百合丘さんらしさの詰まった絵が描けるようになります! ……それにしても、あの優しいタッチの絵、成城さんが描いたんですか?」


 しまった! 本人すぐそこにいるのにあからさまに驚いちゃった! でも正直、ちょっとびっくり。氷の女帝みたいな雰囲気の方なのに。


「おかしいですよね。きっとゴーストレーターがいるんです」


「えっ、いやそのごめんなさいそんなつもりはっ……!」


 ちょっ、ちょっと本牧さん!? 思ってても言って良いことと悪いことが!!


「本牧、聞こえてるわよ」


「なんだ、いつの間にか僕らに混ざってたんですね。さて、働き詰めで疲れたでしょう。時間だし、非番の僕が言うのもなんですが、一旦休憩しましょう」


「そうね、せっかくお菓子をいただいたのだし。本牧には毒入り紅茶を淹れてあげる」


「いえいえ、お仕事でお疲れのところお手を煩わせるわけにはいきません。今日は僕がお茶を淹れます」


「いいのよ。非番のあなたを働かせるのは気が引けるもの」


 本牧さんと成城さん、仲良しだなぁ。毒を含んだ会話ができるのは信頼関係があってこそ。それに二人とも落ち着いていて、カップルだったらお似合いだ。


 もしかして……。


 そう思ったら、心に急に暗雲が立ち込めてきて、少し呼吸が乱れ、頭が重たくなってきた。

 お読みいただき誠にありがとうございます!


 インフルエンザから復活しました!


 今回のお話ではポスターイラストに苦悩する新入社員をメインに描きましたが、キャラクター設定ってイラストも小説も大変だな~と思うこの頃。イラストについてはお近くの絵師さんにお尋ねいただければと思いますが、小説のキャラクターは何処で生まれてどの学校を卒業して、これまでに何があって、みたいなことを組み立てるので、結構大変な作業ですが、人物に深みが出るので結果的には楽しいです。


 読者の皆さまも色々な物語に触れるとき、このキャラクターの背景には何があるんだろうと、たまに想像していただければ幸いです(*´ω`*)

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