エモーショナルチケット
12月、この近辺ではイルミネーションが盛んになる。ということで、僕と未来の休日が重なった日曜日、横浜みなとみらいへ出かけることにした。
横浜は一日中歩き回っても飽きない街だが、日曜朝は8時半のアニメを見るのが未来の習慣なので、あれやこれやとマンションを出たのは10時過ぎだった。
モノレールの改札口を横目に大船の駅舎に入った。窓口には十人ほど並んでいて、多機能券売機は一人が順番を待っている。
それを横目に僕は改札機にカードを、未来はスマホをタッチして、根岸線のりばへ歩を進めた。支社勤務になってからは主に横須賀線を利用しているので、根岸線は久しぶりだ。
発車待ちをしている電車の先頭10号車に乗り、座席はほとんど空いているので着席した。僕と未来は周囲への気配りとして電車内ではほとんど会話をしない。
ニヤニヤしながら美少女の画像をスマホに保存しまくっていた未来は気が済んだのかドア脇のパーティションにもたれて眠り始め、僕はぼんやり発車を待っていた。ふと運転台に目を遣ると見覚えのある女性運転士の背が見えたが気にしないことにした。
成城さんからもらった課題に対し、僕はまだ提言できていない。僕の担当業務ではないが、垣根を越えて仕事をしてはいけないわけではなく、むしろ最近は会社がそれを推奨しているので前向きに捉えている。しかし案がない。
現行では、多機能券売機の利用者が増えれば窓口業務の負担が減るので案内係を配置し、窓口に並んでいる客に声をかけてそちらへ案内する方式を採っている。スマホやICカードを活用したチケットレスサービスではインセンティブを設け、新幹線を含む一部路線の特急料金を割引している。
しかしそれでも窓口の行列は解消されていない。
学生は学生証を提示しなければ定期券を買えないため、3月半ばから4月にかけて長蛇の列ができるのは仕方ない。マイナンバーカードの普及が進めばいずれ混雑は緩和されるだろう。既にそれを学生証代わりに使用できる学校もある。
電車が発車して、いくつものトンネルを抜けて横浜の山間部を颯爽と駆けてゆく。高台から街を見下ろす根岸線の車窓はなかなか風情があるし、久里浜さんの運転は停車時の衝撃がほぼ無く快適な移動空間だ。
鉄道は文明の利器でありながら、旅情感や車両が醸し出す雰囲気など、情緒を多分に孕んだ交通機関だ。例えば同じ渓谷を走っていても、バスより鉄道車両のほうが画になるのは多くの人が感じるところだろう。
駅員時代、窓口業務に当たっていたころの記憶が甦る。
窓口で発売している鉄道の情緒を演出するアイテム。そう、きっぷだ。




