窓口と券売機とチケットレス
12月に入った。歳を重ねるに連れ時の流れが速くなっているように感じる。
僕は相変わらず未来と穏やかなひとときを過ごし、職場ではPCと向き合ったり電話応対をしながら悠久のような時を過ごしている。
「相変わらず眼が死んでるわね」
18時、珍しく定時退社した僕。人混みに紛れて横浜駅構内のコンコースを歩いていると、背後から旧姓成城さんが追い付いてきた。
「僕はこのまま終わるのかなっていう無限ループから抜け出せなくて。ああ、疲れた……」
「そんなあなたに、ちょっと相談があるの」
「相談? この枯れ果てた僕に?」
「そう、枯れ果てたあなたに。ほら、あれを見て」
「窓口の行列?」
成城さんの視線の十メートルほど先に、切符や定期券等を発売する窓口に形成された長蛇の列。見慣れた光景だ。日本総合鉄道はきょうも多くのお客さまにご利用いただけている。
「ええ、なら、次に目を配るのは?」
「多機能券売機」
「そう、私たちが駅業務をしていたころから課題だった、多機能券売機の稼働率向上とチケットレスサービスの利用促進」
「難しい課題ですよね。多機能券売機もチケットレスサービスも以前よりは利用者が増えましたけど、まだまだ窓口を頼りにする人は多い」
窓口は長蛇の列、窓口とほぼ同じ内容の切符や定期券を買える多機能券売機は5台設置で三人並んでいる程度。
「それ自体はいいのよ。窓口にはお客さまが潜在的に求めているお得なきっぷを提案したり、特殊な経路の乗車券類を発売したり、歴とした存在意義があるわ。問題は……」
「一刻も早くチケットを入手したいのに、多機能券売機やチケットレスサービスの使い方がわからない人たちが窓口に並んでいる現状の打破と、窓口の混雑緩和」
「そう、お客さまにとっても駅社員にとってもデメリットしかないわ。だからそれをどうにかするように、会社から以前より強く発破をかけられているの」
「案内係が多機能券売機に誘導してはいるけど、対応にも限界がありますからね」
会話をしつつ、通行人や支柱とぶつからぬよう注意しながら歩き、改札口を通過。階段を上がり9番線の乗車口で快速電車の到着を待つ。
「どう? もし良ければ、いっしょに考えてみない? 多機能券売機とチケットレスサービスの利用促進。あなたが望む‘人に喜ばれる仕事’よ」
周囲には無数の旅客たち。成功すればこの中の多くの人に良い影響を与えられる可能性が高い。
人に喜ばれる仕事。現場でそう言われると、臨場感がある。
「けど僕は他部署の人間だし」
「無理はしなくていいわ。いまは昔みたいに他部署に口出しするなという時代でもなくなったし、もしあなたの提案が実を結んだら、ユーロトンネルの出口に少しくらいは近付くと思ったまでよ」




