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未来がずっと、ありますように  作者: おじぃ
迫るタイムリミット
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目は虚ろでも前を向いている

 帰宅すると、リビングのソファーで緑のジャージを着た未来がうつ伏せになり、ワイヤー付きのイヤホンを装着してスマホで動画を視聴していた。彼女はよくV-tuberの歌を聴いている。最近は『夜空のムコウ』のカバーにハマっているそうだ。


「おかえりなさい」


「ただいま」


 物音か気配かで僕の存在に気付いた未来はイヤホンを外し、おもむろに起き上がって座面に座った。


「きょうのご飯は、な、なんと! ……何にしよう。冷食はたくさんあるからすぐ食べれたりはするけど」


「ラーメンでも食べに行こうか」


 仕事で疲れた後は、無性にラーメンを食べたくなる。


「そうしましょう」


 ということで僕らは、茅ヶ崎から大船に移転して順調に営業しているという近所のラーメン屋へ歩いた。


 帰ったらエプロン姿の彼女がお出迎え、なんてことを僕は期待していない。ましてきょうは未来も出勤日だった。疲れているなら外食や出来合いのものに頼れば良い。疲れていなくても、料理をしたくなければしなくて良い。逆に僕が早く帰ってきて料理をしたいかと言えば否。休日の何もやることがない、体力的にも精神的にも余裕があるときに料理する。


「いらっしゃい!」


「こんばんは」


「どうもこんばんは」


 僕、未来の順に言った。


 カウンター席に着いた僕らは早速注文。僕はこってりラーメン塩、九条ねぎトッピング。未来はあっさりラーメン塩、九条ねぎ、バタートッピング。こってりという選択肢があるのに敢えてあっさりを選択してバターをトッピング。通なチョイスだ。


 店内はテーブル席含めほぼ満席。ガテン系の男やスーツのオヤジ、高校生か大学生と見られる私服姿の男女、競馬新聞を左手に持った黒いジャンパー姿の初老男。大船でも変わらず庶民に愛される店だ。僕はここに週1で通っている。


 よく見ると空席には霊がいる。ランシャツ半ズボンのガタガタヨレヨレジジイ。瓶ビールにメンマ、チャーシューの盛り合わせ。飲食物もまた実体はない。


「このお店、小百合さんに紹介したいなぁ」


 ふと思い立ったように未来が言った。


「誘ってみたら?」


「うん、誘おう、そうしよう」


 人生のミッションとか、そういうことは上手く行っていない現状。まだ機が熟していないのかもしれない。だが大切な人とこうしてラーメンをすする日常は、幸せというほかない。

 お読みいただきまして誠にありがとうございます。


 次回は9月18日を予定しております。何卒ご了承のほどお願い申し上げます。

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