迷走中
注文から1分ほどで出てきた牛丼とお新香、味噌汁のセットを僕は10分で完食、三浦さんはその2分前に食べ終えていた。
「ちょっと、お散歩でもしませんか?」
三浦さんの誘いに僕は後ろめたさを感じたが、これは浮気の誘いではなく、社会人としての誘い。何か意図があってのことだ。
誘いに乗った僕は、ただ三浦さんに付いて歩く。
牛丼屋から徒歩1分、辿り着いたのは雑居ビルの2階にある喫茶店。片側一車線の狭い道を隔ててタクシープール、バスロータリー、茅ケ崎駅がある角地に構える年配客が多い昭和の純喫茶。
昭和レトロとか、そんなミーハーなジャンルではない。カフェと呼ぶにも相応しくない喫茶店。インスタ映えとかそういったものを目当てにする者には決して向かない、落ち着いた雰囲気の店だ。現代に於いてはかなり人を選ぶ店と思われるが、僕や三浦さんには合っている店だと思う。
窓際の四人席に通された僕と三浦さんは、揃って温かいミルクティーを注文した。
「未来ちゃんもね、この先どうするのか迷っているの。このままブライダルプランナーを続けるか、別の道に行くか」
ミルクティーを一口含んで息を整えたところで、三浦さんが切り出した。
「だから本牧さんの気持ちはすごくわかるけど、自分でもどうしたらいいかわからないって、悩んでいて」
「そう、ですか」
そうか、僕は自分のことで目一杯になって、未来と向き合っていなかった。
ブライダルトレインをやり遂げてから覇気がなくなってきているのはわかっていたのに、自分のことで手一杯になっていた。
「でもね、未来ちゃん、人を幸せにしたいっていう気持ちは変わっていないの。本牧さんも同じ気持ちを持っているから、職は違っても二人で力を合わせていきたいって、よく言っているわ」
「そう、なんですね」
返す言葉が見つからない。
「それでね、わたし、生き急がないで俯瞰する時間を設けたら? って、未来ちゃんに言ったの」
「俯瞰、ですか」
「そう、俯瞰。本牧さんと未来ちゃんはときどき旅行して、息抜きをしているでしょう? そういうイベントはとても大事だから、これからもやっていけばいい。仕事を忘れて何もしない時間は、後に大きな利益を生むわ。けどね、仕事、ううん、自分の存在意義を果たすために一旦アクションを止めて、思考を巡らせる時間も、必要よね?」
「そう、ですね」
三浦さんの言わんとしていることはつまり、僕も未来も『人を幸せにしたい』という漠然とした目標のために走ってはいるが、具体的な行き先や手段がわからず迷走しているのでは? ということだ。図星だ。少なくとも僕に関しては。




