この寄せ合った肩よりずっと
近い、さっき狭い歩道を歩いたときより距離が近い!
次は本郷台、続いて港南台、洋光台……。本牧さんのお勤め先まであと何駅だっけ……?
銀色の車体にスカイブルーの帯を纏った電車が大船駅を出発して数分。風を切りながらトンネルの出入りを繰り返し、小高い丘をカタンカタンと心地よいビートで駆け抜けてゆく。
車端部の3人掛け座席。私は壁際、本牧さんはその隣。自分の汗のにおいや、見る価値もないだろうと自覚しつつ、スカートから露出している膝上が気になったり、これから他所さまでのお仕事の相談で緊張したり、ほぼ密着状態の本牧さんがウトウトして数十秒間隔で私の肩にもたれかかってきてポ~ッと頬が温かくなったりとか。
本当に疲れてるのに、付き合わせてごめんなさい。
疲れが一定値を超えると、私も本牧さんみたいに電車で居眠りして軸が定まらず、ゴン! と壁や窓ガラスに勢い良く頭をぶつける。
端の席に座れなかったときは、隣の人に何度も払い除けられる。迷惑なのはわかっているのに、疲労困憊の身体は悲鳴を上げ、空席があれば座りたくなってしまう。その気持ちはよくわかるから、私が逆に誰かに寄り掛かられたときは、知らない人でも身動せずじっとしている。それにはちょっと戸惑うときもあるけれど、ただ迷惑と突き放すより、隣にいるその人にはきっと何か大変なことがあって、私がじっとしているだけで少しでも疲れを癒せるのならと、いつしか自然に思うようになっていた。
本牧さんにもきっと、色んな事情があるのだと思う。お仕事が大変だったり、それ以外の、家族とか友人関係なんかの重荷も背負っていたり。
そんな悩みのタネを打ち明けられる存在になれたらいいな。
それくらいの望みなら、他に大切なひとがいても、きっと大丈夫だよね?
この寄せ合った肩よりずっと、心の距離を縮めたいって、たった今、そう思った。




