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未来がずっと、ありますように  作者: おじぃ
迫るタイムリミット

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隣にいるよ

「居抜きの店ならあるぞ」


 未来と二人で大船に戻り、水銀灯が照らす薄暗い裏道を歩いていると、無だった空間からじわじわと人形ひとがたが現れた。幽霊が可視化する瞬間を初めて見たが相手はいつものオヤジなので僕は「あ、どうも」と軽く挨拶をした。


 未来はなんの脈絡もなく挨拶をした僕に「え、何が?」と言った後1秒で状況を理解した。


「いたんですか? さっきお店に」


「アンチャンのを香食こうじきさせてもらったよ。塩あっさりにバターもなかなか美味いな」


「いたなら久里浜さんのフォローをしてあげれば良かったのに」


「久里浜ってのはあの姉ちゃんか。俺が線路に横たわってて目が合うのに急ブレーキかけないイカれポンチ」


 久里浜さんも見えるのか。運転士が霊を視認するケースはときたまあり、線路に人が立ち入っていると思い急停車させ電車の下や周囲を確認しても誰もいないなんてこともある。


「地縛霊だから顔とか背格好を覚えられてるんでしょう」


「世の中にはドッペルゲンガーってのがあるんだぞい。もし俺と瓜二つの生きた人間だったら殺人犯になるぞい」


 急にぞいぞい言い出したぞい。


「そうですね、交差点に炬燵こたつを置いて団らんする人がいる世の中だから、線路に横たわってお酒を飲む人くらいはいるでしょうね。そういえばおじさん、まだ電車を止めた賠償金を払ってもらっていないようですが。無縁仏で遺族もいないし。こうやって姿を現せるならいまからでも……」


 急病等やむを得ない事情を除き、故意または過失で列車の運行を妨げた場合、列車を止めた時分に応じて賠償金を請求される場合がある。情状酌量される場合もあるが、線路上で飲酒など低俗な行為に及んだ場合は請求を免れないだろう。


「おっと話が脱線したな、鉄道員ぽっぽや相手なだけに。それでだ、居抜きの店の場所なんだがな」


 話を復線させたオヤジは、僕に店舗の場所を伝えた。なんとここから徒歩3分の場所だったので、オヤジに案内してもらった。


「どうだ、いまの店よりだいぶ広いが、中はラーメン屋のままだろ」


 真っ暗な店の中を未来と覗き見る。玄関口は厚いガラス張りで、外からの見通しは良い。カウンター席が10席、四人席が5卓。座席間隔が広く、茅ヶ崎駅前の店舗と比べると3倍ほどの床面積。これは家賃が高そうだ。しかも大船駅から徒歩10分、これはなかなか難しいぞ。しかし駅から離れていても行列ができる店もあるし、口コミ次第などで繁盛する可能性はある。


「夜の空き店舗、うう、お化けが出そう」


「未来の隣にいるよ」


「あ、そうなんだ」


 左からオヤジ、未来、僕の順に並んで覗き込んでいる。未来は特段怯える様子もなく、平静を保っている。


 店内にも気配はあるが、姿は見えない。彼らは特に悪さをしない、その辺にいる幽霊だろう。生きているか死んでいるかの違いはあるが、単なる公衆に過ぎない。大方普段からこの空き店舗で酒盛りでもしているのだろう。


「ちょっと話聞いてくるな」


 言ってオヤジは店内に入り、四人席で立ち止まった。僕は目を閉じて心を澄まし、開くとそこには中年の霊が3体、茶髪の若者っぽい霊が1体いた。いずれも男で、瓶ビールを小さなグラスに注いで飲んでいる。


 オヤジは1分ほど聞き込みをして未来の隣に戻ってきた。敢えて僕ではなく未来の隣にいるように感じる。助兵衛根性だろう。


「歓迎だってよ。良かったな。奴らはここにあった店の常連で、もう一年くらいラーメンを食えてないらしい。ビールは前の店主が冷蔵庫に置き去った期限切れのだし、またラーメンを食えるなら生きてる人間には見えない力で客を誘導してやるって」


 いい人たちだ。


 霊能力で客を引き寄せるとはどういうことなのか気になるが、ガラスの玄関扉に貼られていた不動産屋の社名と連絡先をスマホのアドレス帳に登録した。帰ったら検索もしてみよう。 

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