森の香りに包まれて
未来はどうして、虚無な僕を好いてくれているのか。謎だ。百合丘さんの勧めで見た、特に中身のない主人公がハーレム状態になるアニメと同様の謎だ。
宝箱ならまだいい。だが空虚な人間は大概ウザイ。それは件のアニメやそこらで出合う人間を見ていて日々感じる。
純粋な田舎娘がクソ野郎に誑かされて好きになっちゃったというようでは申し訳ない。僕の住む家はなくなるが別れるしかない。僕は仕方ないからしばらく実家で厄介になろう。
そんなことを考えていたら、なんだか眠くなってきた。最後の風呂だ、ゆっくり浸かろう。
そう決めて数分経たずに、僕は意識を失った。
◇◇◇
「あぁ、ストーブあったかい。ぬくぬくしながら読むラノベは至高!」
さっき大船駅構内の書店で買ったライトノベルを半分読んだ。けっこう時間が経ってるはずだけど、悠くんがまだお風呂から出てこない。
入り納めだからゆっくりしているのか、はたまた気絶しているのか。
まさか、悠くんはもう、死んでいる?
そしたら私はショック!
ほわーたたたたほわーたたたたほわーたたたた終わったー! ってならないとも言い切れないから、様子を見に行こう。お風呂はお家の中で特に事故が起きやすい場所。
お風呂場の扉は閉まっているので、とりあえず開けずに声をかける。微かに森の香りの入浴剤の香りが漏れ出ている。
「起きてますかー」
返事がない。
これはよもやほんとうに、お前はもう死んでいる?
彼は32歳で命が尽きると言っていたけれど、よもやよもやだ。
万が一も考えて扉を開けると、森の香りがもわっと全身に降りかかってきた。
花の咲かない森の香りのお風呂で、彼は小さく口を開けて目を閉じていた。寝息を立てているから、生きてはいる。
「ん……」
「あ、起きた」
「あ、寝てた」
「心配して見に来てみれば、やっぱり。もう一回追い焚きして温まれば?」
「うん、そうしよう」
「今度は死なないように私が見守ってます」
「それはどうも」
……。
「監視されながら入浴するって、なんだか」
「私はなんかの生きものだと思っていれば大丈夫。たとえばネコ、その辺のバッタとかカマキリとか、ヤモリとか」
「ヤモリにしておこう。家を守ってくれる縁起のいい生きものだからね」
「じゃあヤモリで」
監視すると言いつつ、しゃがんでいると段々疲れてきた。
「そうだ、聞きたいことがあるんだ」
「なんでしょう」
「どうして僕を、好いてくれたの?」
そういえば、そういうことは話してなかったかも。だけど……。
「あの、それ、オチ○チ○丸出しで訊きますか?」
「じゃあ、一旦出よう。明日、朝風呂しよう」




