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未来がずっと、ありますように  作者: おじぃ
迫るタイムリミット
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まごころの温泉地、飯坂

 この辺りで日帰り入浴ができるところはないかと探してみたところ、数は多くあった。その中で貸し切り利用が可という、飯坂温泉でいちばん小さな温泉旅館の内湯に浸かった。


 少し熱めの、いい湯だった。貸し切りだから、静かで落ち着いている。浴槽は三人くらいならゆったり入れる広さだった。


 こじんまりとした旅館の、暖色照明が照らすカーペットの敷かれた小綺麗な玄関には、街のあちこちで見かける勝ち気な女の子の等身大パネルと、デフォルメされたパネルが立ち、壁にはいくつもの絵馬が掛けられていた。


 すごいな、歩いているとあちらこちらで見かけるこのキャラクターは、飯坂の街に愛されているのだろう。


 坂の途中にある旅館を出て正面は、白塗りの蔵のようながっちりした建物、下りきったところの四つ角には木造の古い旅館。その隣に、木造のやぐらのような建物と共同浴場。


 旅館の正面には、ズバリ『土産屋』なる商店がある。そこに立て掛けられた看板に、僕は惹かれた。


「アイスキャンディーか。懐かしいな」


 といっても、あまり食べたことはないのだが。


 カラカラカラ。反射的にガラス張りの引き戸を開けた。


「はいいらっしゃいませー」


 店に入ると、缶詰めやスナック菓子が陳列されたカウンターの向こうに立っている、見た目40代ほどの中肉の女性が出迎えてくれた。


 右奥に置かれた四人がけのテーブル席の丸椅子に、同じく40代くらいの痩せ型の男性が座っていた。その背後には、いろんな女の子のキャラクターのアクリルキーホルダーが台座に飾られている。磐梯熱海温泉で見たキャラクターもいる。壁にキャラクターマップが貼ってある。全国各地の温泉地にいるキャラクターシリーズのようだ。


 左を見て、カウンターにはデフォルメされた飯坂温泉の女の子のキャラクターがビールジョッキを持っているパネルが3種。乾杯、はっちゃけ、吐きそうで倒れているの3通り。


「こんにちは。アイスキャンディーはありますか」


「はいー、そちらですー」


 と、女性が手を差した店の奥、レジ横に、昭和の雰囲気漂うアイスケース。昔、駄菓子屋に置いてあったアイスケースといえばこれだった。


 いくつか味がある中からミルク味を選び、代金130円を払った。


「すごいですね、キャラクターの数」


 壁を見て、僕は言った。


「すごいでしょ! これね、ここに来てくれるお客さんがプレゼントしてくれるの!」


「へえ、全国の温泉地に行ってきたお客さんが?」


「そう! 飯坂に何回も来てくれるんです!」


「キャラクターをきっかけに飯坂に来て、僕ら地元の人間と仲良くなって、ここが居場所になって言ってくれる人もいるんですよ」


 と、口を開いた男性。


「居場所、ですか」


「はい、ほんとうに嬉しいことです」


 旅館の経営者だという男性に詳しく話を聞いたところ、女の子は飯坂温泉の神様という設定らしい。飯坂温泉は、東日本大震災に伴う原発事故で風評被害を受け、客足が減ったという。そんな中で、この女の子は飯坂温泉を知らなかった人や、以前から知っていたものの、これをきっかけに足を運んでみた人がいるなど、新たな観光客を呼び込んでいる、正真正銘の神様。


 しかも、この飯坂温泉を自分の居場所として遠近津々浦々の人々が遊びに来る。キャラクターや地元の人々に会いに来る。


 僕は率直に感じた。


 こんなに素晴らしいことがあるだろうか。


 僕はこれまで、駅のインテリア改良で多くの人を救おうとしていた。だけど、数は少なくても必要としている人にピンポイントに届けるやり方もあるんだ。いや、むしろ駅のインテリアはビジネスにこそなれど、それで‘救われる’人は僅少ではなかろうか。


 対してキャラクターを起爆剤として始まった飯坂温泉の営みは、真心から地域に活気を与えているんだ。


 そうだ、僕がやりたいのは、正にこれだ。

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