磐越西線
郡山駅からはローカル単線の磐越西線に乗り換えた。車両は片側3つドアのセミクロスシートで構成された東北地方では最新型の電車、721系東北仕様(先に北海道仕様が登場しているが、名前が同じ別車種である)。ドアが少ない点を除けば首都圏の新型電車と見劣りせず、内装も近代的な都市型電車でありながら、ボックス席の窓際にはドリンクを2つ置ける溝のある小さな台がある懐かしい仕様。昔の車両のボックス席には概ね小さな台があった。缶ドリンクやカップ酒、おつまみやタバコを置くためだったのだろう。昔は特急や急行はもちろん、普通列車でも喫煙可だったそうだ。
景色は家電量販店やホームセンターなどが建ち並ぶ街の風景から徐々に田園風景へと移ろっていった。今夜宿泊予定の宿がある磐梯熱海駅を過ぎると、電車は急勾配を一気に駆け上がり、車窓の両サイドは山となった。
木々生い茂る山中を進む電車。車窓からクマやシカが見えてもおかしくない。こんなところを歩いたら遭難するかクマに襲われるだろう。実際、磐越西線のこの辺り、中山宿駅付近ではクマとの衝突事故が多く発生している。
そして僕の正面には、クマのお友だちが座っている。
「ん、なんですか?」
僕の視線に気付いた衣笠さんは、訝しげに僕を見ている。
「いや、なんでも」
「っていうときはだいたい何かある」
「クマの友だちが目の前にいるなと」
「ああ、なるほど。この辺クマ出そう」
切り立った崖を行く電車。衣笠さんは眼下の森を見下ろして言った。
「出るんです」
「出るんですか」
「出ます」
最近は街の中でもクマが出る。森の中で出くわすのはある意味当たり前かもしれない。
山を抜けた電車は平野に出て、緩やかなカーブを軽快に進行。車窓には会津磐梯山が見える。標高約2千メートル、山の中央部は大きく切り開かれ、スキー場となっている。そういった意味では特徴的な外観の山だ。
『まもなく、猪苗代、いなわしろです。The next station is Inawashiro』
田園風景の中、首都圏で聞き慣れている声で自動放送が流れ、電車は猪苗代駅に到着した。




