やまびこ号
『お待たせいたしております。本日も、日本総合鉄道をご利用いただきまして、誠にありがとうございます。やまびこ133号、仙台行きと、つばさ133号、山形・新庄行きでございます』
男性車掌の滑舌の良い放送が流れた。新幹線は在来線と比べ、滑舌の良い車掌が多い。
「東北新幹線で仙台まで行かないで降りるのは初めてかも」
「そうか、なら、旅行の終わりに衣笠さんだけ帰省する?」
おばあさんと、あと何回会えるかというところだろうし、会っておくのも良いだろう。家族水入らずの時間を過ごしてほしい。
「うーん、どうしましょう。考えておきます」
列車は東京、上野を発車した直後にゆらぎのある穏やかな音楽と二ヶ国語の自動放送を流し、途中の大宮駅まではゆるゆると在来線並みの速度で走った。そこからは時速2百キロ以上320キロ以下まで加速する。速度は列車によりまちまちだが、いま僕らが乗っている『やまびこ』の最高時速は275キロだ。
列車はきょうも変わらず、田園風景の中を颯爽と駆けてゆく。
ガムシロップと植物油のポーションを入れたアイスコーヒーをちびちびすすりながら、ぼんやり車窓を眺める。
「うん、私にはやまびこ号がしっくりくる」
窓側に座る衣笠さんが言った。東北新幹線に列車名は『やまびこ』と『つばさ』のほか、『はやぶさ』、『こまち』、『なすの』、がある。厳密にはもう一種『はやて』あるが、現在は主に北東北と北海道の間を走るのみで、岩手県の盛岡以南では滅多に走らないため説明は割愛する。
「車種が?」
前回、衣笠さんと仙台へお祖父様のお葬式に出向いたときに乗ったのは、往路が鉄道版フェラーリのような赤い車両『こまち』、復路がときわグリーンの『はやぶさ』。いずれもノーズ(先頭の鼻部分)が長い新型車両。『はやぶさ』と『こまち』は大宮駅を出ると次は仙台に停車、この間を約1時間で結ぶ速達列車だ。栃木県と、今回の旅行の目的地である福島県はまるごと通過する。
速達列車が通過する駅にも停車するのが各駅停車の『なすの』、各駅停車もしくは一部の駅を通過する『やまびこ』だ。『つばさ』は途中の福島駅から東北新幹線の線路を逸れて、在来線の奥羽本線に乗り入れる。
「うーん、『はやぶさ』とか『こまち』と同じ車両を使った『やまびこ』もありますけど、それはそれでしっくりくるんです。きっと、『やまびこ』っていう東北新幹線らしい名前が好きなんだと思います」
そう、衣笠さんの言う通り、最新型車両を使用した『やまびこ』も存在する。むしろ現在では大半の『やまびこ』が『はやぶさ』タイプの車両で、一部に『こまち』タイプの車両が『やまびこ』の運用に就いている。ただし、僕らが乗っている列車のように『つばさ』と併結している『やまびこ』は全列車が旧型車両だ。
「なるほど、確かに『やまびこ』は東北新幹線の代名詞かも」
マナーの観点から会話は控えめに、僕らは引き続きコーヒーを少しずつ飲みながら、車内でのひとときを過ごした。そしてちょうど飲み終わるころ、列車は郡山駅に到着した。




