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未来がずっと、ありますように  作者: おじぃ
迫るタイムリミット
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学生時代に味わえなかった青春

 茂みやトンネルの中をとことこと駆けて行く、ドアや荷棚の上に液晶ディスプレイがたくさん設置された横須賀線の電車。小百合さんは歩き疲れたのか、頭を上下にフラフラさせてすやすや眠っている。


 小百合さんは、けっこう可愛い人だ。


 私も寝落ちしているうちに大船おおふな駅に着いて、小百合さんに肩をふわっと叩かれて起こされた。私はここで下車、小百合さんは根岸線に乗り換えて山手やまてへ帰る、はずなのだけれど……。


「あれ、小百合さん、どうしました?」


 小百合さんも私といっしょに改札口を出た。


「駅ビルでお惣菜でも買って帰ろうかと思って」


「ああ、なるほど。私もお惣菜買って帰りますので、もし良かったら私の部屋でいっしょに食べませんか?」


「あら、いいわね。じゃあお言葉に甘えちゃおうかしら」


 ああ、この華のある笑顔が私の癒しです……。


 ということで、きんぴらごぼう、アボカドと水菜のシーザーサラダと白ワインを買って、私の部屋に小百合さんをお招きした。横須賀で腹持ちの良い食事をしたので、夜はこれだけで十分。


 夜7時のリビング。小さなワイングラスで乾杯をして、ワインを口に運ぶ。


「なんだか私、最近ワインを美味しいと思えるようになりました」

 

「ふふ、大人になったのね。私も、ワインが美味しいって思えるようになったのは、つい最近なの」


「小百合さんもですか? 意外」


「精神年齢は未来ちゃんより幼いのよ、きっと」


「いやいやいやいや、そんなことないですよ! 私もまだまだお子ちゃまです!」


 笑顔を絶やさない小百合さんと、東北訛りの抜けない私。


「ふふ、私は赤ちゃん還りしているから、未来ちゃんに抜かれるのも時間の問題よ」


「ばぶばぶですか!?」


「そう、ばぶぅばぶ~ぅ」


 小百合さん! 小百合さんの赤ちゃんの真似、あざとさがなくてほんとに純朴!


「なんだかね、学生時代に味わえなかった青春が、今になって訪れているような気がするの」


「あ、わかりますそれ! 私もです! 私は田舎のくまごろうだったので……」


 そう、学生時代の私は色恋沙汰もはっちゃけも何もなく、小百合さんは泥沼の日々を過ごしていたという。


 ああ、自分も青春らしい青春時代を過ごしたかった、そんな悔いを抱えたまま社会人になった。


 でも『青春』と、『学生』や『社会人』という枠組みは別物。社会人だから青春が訪れないということではない。しかも、小百合さんみたいに高貴で優れた人のほうが青春の到来は遅いのではと、ブライダルプランナーの仕事をして老若様々なカップルを見てきたり、世相を感じるなどして、最近なんとなく悟っている。


 幸せが早く訪れて、人生の後半で苦労する人が世の中の大半。けれど少数ながら、その逆もある。それがきっと、小百合さんみたいな高尚な人たち。


「くまごろう……」


「クマさんとともに畑仕事をするなどの日常を過ごしていました」


「あらまあ、楽しそう。私もクマさんといっしょに畑仕事したい」


「驚かないんですか?」


「だって、未来ちゃんは動物さんに好かれそうだもの」


「はい、動物には好かれます」


 女子二人でほわ~んとする、真冬の夜。日本酒があっても良かったかもしれない。

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