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未来がずっと、ありますように  作者: おじぃ
迫るタイムリミット

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小さな百合と背徳感

 横須賀駅に着くと、改札口を出てすぐ目の前にある小さなロータリーから路線バスに乗った。後ろから2番目、非常口横の窓側に私、通路側に小百合さんがちょこんと座った。


 横須賀駅には駅ビルがなく、こぢんまりした平屋の駅舎が、しかしずっしりと構えている。駅舎内はコンビニがある分面積が広く、改札口前のスペースは屋根が高く開放的。駅舎の左には木板の遊歩道で構成された海に隣接するヴェルニー公園、右には線路を隔てて道路と崖がある。


 そんな横須賀駅を後に、バスは走り出した。まもなく道幅が広くなり、バスは必要に応じて車線変更を繰り返しながら横須賀の街を颯爽と駆けてゆく。ここ横須賀は米軍の街。車窓からは英字表記の店舗がちらほら見られる。外国人の姿も多い。


 5分ほど走ると交差点を右折して、繁華街に入った。道路の両サイドに雑居ビルがびっしり建ち並び、歩道は人で溢れかえっている。


「駅から離れたところのほうが、人通り多いんですね」


「この近くには京急けいきゅう線の横須賀中央駅があって、こっちが横須賀の中心部なのよ」


 と小百合さん。するとバスの録音放送が、次のバス停は横須賀中央駅と告げた。


「小百合さんは横須賀、詳しいんですか?」


「何回かは来たことあるけど、そんなにかな。でも、この車窓からもわかるアメリカンな雰囲気とか、わくわくする見どころはいっぱいありそうな街よね」


「ふふっ、小百合さん、けっこうそういうの好きですよね」


「そういうのって?」


「うーん、なんというかその、ディープな感じというか」


「反動よ。私は子どものころ、塾に習い事にで籠の鳥だったから、自由に憧れているの」


「ああ、なんか、なんかわかるような。私は仙台の田舎育ちなので、東京とか横浜に憧れていました。小百合さんはその横浜出身で、籠の鳥だなんて」


「だって、私の世界は元町とかみなとみらい辺りの横浜でもごく一部のエリアと、山手の住宅地、それにお家と通い先だけだもの」


「元町とかみなとみらいなんて、今でこそ慣れましたけど、田舎民にとっては憧れの的ですよ」


「そうなんだ。私は逆に、東北の田んぼに飛び込んで泥まみれになってみたい」


「あれですね、ザリガニに鼻を挟まれたり、カエルに顔面を覆われたりで、そんなにいいものじゃないですよ」


「それがいいんじゃない」


 無邪気に笑う小百合さんは、しっとり品があるけど純朴で、なんだか可愛い。ああ、守りたい、この笑顔……。


 横須賀中央駅から高齢者を中心に客が多く乗ってきた。ほとんどの座席が埋まり、通路に五人ほど立っている状態が十数分続いたけれど、街を外れて海沿いの閑静な道路に入った地点では数人しか残っていなかった。しばらく海沿いを走ると、ガラス張りの白い低層建物が右に見えてきた。今回の出張先となっているホテルだ。


 三浦半島の海を臨むリゾートホテルのチャペルを見学し、そこのブライダルプランナーやホテルマンと1時間ほど打合せをして、私たちはホテルを出た。


「ねえ、せっかく観音崎かんのんざきまで来たんだから、ちょっと道草して行かない?」


 ホテルの敷地を出て歩道に出たとき、小百合さんがやわらかい笑みで言った。海風に髪や衣類がなびいて、晴れているけれどなかなか肌寒い。でも、小百合さんからは道草したくてウズウズしている感じが伝わってくるし、この辺りは観光地らしいので私も気になるといえば気になる。


「道草、しちゃいましょうか」


 義務教育の学生と違って仕事上がりの道草は全然悪いことじゃないし、子安さんと出張のときも飲み屋に連れて行かれたりはするけど、小百合さんが企てたというだけで、なんだかちょと悪いことをしている気分。その背徳感に、胸から湧き上がる愉悦を覚えた。

 お読みいただき誠にありがとうございます。PC故障により2ヶ月近く休載しておりましたが、PCの修理が完了し、本日より未来と小百合の百合回をもって連載再開となりました。長らくお待たせしてしまい申し訳ございません。引き続き、よろしくお願いいたします。

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