気になる視線と横須賀出張
ばあちゃんが死んでから1週間後、職場復帰の日が来た。
足取りが重い。
子安駆、名前のとおり駆け込み乗車をしまくってたら、ばあちゃんが危篤になったときにほかのヤツが駆け込み乗車をして電車が遅れて、空港に着いたら飛行機が行ったばっかりで、僅差で死に目に会えなかった特大ブーメラン男。
ばあちゃんが死んで俺は、職場のみんなが自分をそういう男だっていうふうに見てるのに気づいて、今まででいちばん職場に行きたくない感に支配されている。
ああ、マジしんど……。
「おはよう、ござーす……」
オフィスのドアを開けて挨拶した。
「あ、おはようございます」
「おはよう、お久しぶりね」
「おはよう、おばあちゃんと、ちゃんとお別れしてきた?」
未来ちゃん、小百合さん、朝比奈店長が返事をしてくれた。
「うっす、してきました」
「そう。それじゃ、ま、ぼちぼちやってちょうだいな」
こんな感じで、俺は表面上何事もなく仕事に戻った。実際のところこの三人やその他周囲がどう思っているかはわからないが。
◇◇◇
午後、なんとなんと、きょうは小百合さんと横須賀へ出張。子安さんが忌引で休んでからは小百合さんと出かける機会が多くなった。
昼下がり、田浦の森林地帯を駆ける横須賀線の電車は、そののどかな景色とは対照的にドアや荷棚の上にモニターが搭載されていて近代的。3つ連なったモニターからは藤沢や鎌倉周辺を舞台にした美少女アクションゲームのCMが無音で流れている。最後部11号車の7人掛けロングシートには、私と小百合さんしか座っていない。正面のシートには一列まるごと誰も座っていない。
「なんだかきょうの子安さん、そわそわしているような気がしたんですけど、やっぱりまだおばあさんを亡くしたショックから立ち直れていないのでしょうか」
私は今朝からの子安さんの挙動が気になっていた。いつもバカみたいに陽気というか、ほんとうにバカでどうにかしてほしい感じの彼が、どうにかしていてほど良い塩梅になっていたのが、これはこれで変な感じがしてならない。
「そうね、それもあるでしょうけど、どちらかといえば私たちの視線を気にしていたと思うわ」
「視線? どうしてでしょう」
「どうしてかしらね。この前埼玉に行ったときは彼、変わった様子はなかった?」
「そうですねぇ、おばあさんの訃報を聞いてからはすごく焦ってましたけど、それまではいつもと変わらない感じでした」
「うーん」
二人そろって頭上に疑問符を浮かべ、荷棚の上のモニター辺りを見るともなく視界に入れると、田浦駅を出発した電車はトンネルに入り、まもなく横須賀駅に到着しようとしていた。




