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未来がずっと、ありますように  作者: おじぃ
迫るタイムリミット

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242/334

最後の駅業務2

 ほうきと塵取りを片手に重たい鉄扉を開けて、改札口内側に出た。そのまま旅客りょかくに紛れて階段から南行ホームへ上がった。


 ラッシュアワーが過ぎ、全長2百メートル強あるホームに人は数十程度。いつもと変わらない朝だ。


「なんだい兄ちゃん、浮かない顔して」


 と、線路上から僕を見上げているのは、以前この場所で電車に轢かれ亡くなったおじさんの霊体。この駅では僕だけにお馴染みの顔だ。


 僕はしゃがんで、声を控えめに言う。


「僕、この駅での勤務はきょうで最後なんですよ」


「あらま、ほんとかい。なんだ、ここで俺のこと見えるの兄ちゃんしかいないから寂しくなるなあ。これからどうすんだい」


「内勤になります」


「あらまあずいぶんご立派で」


「いやいや、これからどうなることやら。そうだ、僕がいなくなるこの機会に銀河鉄道はいかがです?」


「銀河鉄道?」


「天国行きの列車です」


「ああ、まあ、そのな」


 言うと、おじさんはバツが悪そうに線路の向こうに目を逸らした。


「どうかなさいました?」


「いや、俺、生きてるとき酒にギャンブルばっかでろくなことしてこなかったから、天国行けそうにないんだよな」


「ああ、なるほど」


「なるほどじゃない! そりゃあ兄ちゃんには迷惑かけたと思ってる。俺は最期までクズだった。だから天国には行けない」


「どうしよう、返す言葉がありません」


「だろ? だからまだしばらくここにいるよ」


 僕は今、地縛霊が誕生する経緯の一例を目の当たりにしているような気がする。


「そうですか、でも、ここにいて苦しいと思ったら迷わず成仏してくださいね。楽になるはずですから」


「ああ、わかったよ。そんときゃ考える」


「頼みますよ。向こうに行けば話し相手もいるでしょうし」


「どうたかな。いたとしても俺みてえなクズばっかだな」


「良かったじゃないですか、気の合う仲間がいそうで」


「なんだと!?」


 周囲から見たら異様な光景。僕は「ときどき様子を見に来ます」とは敢えて言わず、「それじゃ、きょう一日よろしくお願いします」と言ってその場を去った。

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