新しい朝、変わらない日々
カーテンの隙間から陽が差して、私は目を覚ました。
瞼をゆっくり開きながら起き上がる。着衣しないまま眠ってしまった。隣には彼が仰向けで眠っている。やっぱり、服は着ていない。
とりあえず、シャワーを浴びさせてもらおう。
すっかり冷えた身体の表面を、熱めのシャワーで温める。腹部が疼くのは、冷えのせいじゃない。
「ううう、恥ずかしい……」
初めてを経ると何かロマンチックでほわんほわんした感情が芽生えるかと思いきや、あれやこれや声を出した羞恥心に支配されていた。
慣れれば平気になってくるのかな。大人の営みのことは、まだよくわからない、衣笠未来、23歳。
それでも、大きなイベントを越えた後でも、日常に大きな変化はない。地球は変わらず回っていて、大きな隕石が落下して生物が滅亡することもなく、私自身の周囲にも特に変化はない。意外とあっさりした感じで、日々は続いてゆく。
しばらく続いた休日は、きょうが最終日。明日からは私も本牧さんも仕事。
本牧さんは転勤前の準備、私はブライダルトレインの挙式が終わってから特に大きな案件はなく、ルーチンワークに当たっている状態。小百合さんに追いつくにはまだまだ時間がかかりそう。
◇◇◇
目覚めると、彼女は隣にいなかった。シャワーの音が聞こえる。
昨夜はとても、満たされた夜だった。愛する人と想いを寄せ合って過ごす夜があんなにも心地の良いことだと、女性経験がそれなりにある僕は初めて知った。この気持ちをなんと言えば良いか。シンプルに『満たされている』、そして、全身が軽い。今なら数時間かけてみなとみらいまで歩けそうだ。
彼女の感触が、まだ全身に残っている。やわらかくて、華奢で、乱暴に扱ってはいけないのに僕を夢中にさせるあの感触が。
起き上がり、布団に座り込んだままたそがれる。のっそり立ち上がってカーテンを開け、朝陽を浴びる。やさしさに包まれているようだ。
これから僕がどのような人生を歩むかは不明瞭だし、いつだって未来は不明瞭だが、伊豆の海を見て、小さいけど心躍らされる駅舎を見て、夢の叶え方は星の数ほどあるのだと思い知らされた。心穏やかになる駅空間は、必ずしも大きな駅でなくても実現できる。駅でなくても良い。空間でなくても良い。僕のしたことで、誰かの心が穏やかになるのなら。
こうして仕事に重きを置いて生きてきた僕だが、これからは衣笠さんとの日々も大切にしてゆきたい。これまでは女遊びをしてきただけで恋愛未経験だった軽薄な男が、これから彼女とどう向き合ってどのような日々を思い描くかなんてビジョンは今のところないが、想い合いながら、思いやりながら幸せな日々を過ごせたらいい。
風呂場からシャワーの音が聞こえなくなった。そろそろ彼女が出てくるのだろう。僕も続いてシャワーを浴びて、気持ち良い一日をスタートさせよう。




