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未来がずっと、ありますように  作者: おじぃ
はじめてのウエディングプランニング
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まるで自分の予知夢のような

 カランカランと涼しげに、手元に置かれたグラスの氷が溶け、悠生は水を一口吸い込んだ。BGMは無く、白壁と焦げ茶色の柱が落ち着いた雰囲気を演出する、車通りの少ない道路に面した喫茶店の窓際席。窓の外は住宅街の片側一車線道路で、その上空をツバメが滑空し、弧を描いて電線に留まった。


 少し早く来過ぎたか。


 9時20分。悠生は待ち合わせ40分前に喫茶店に到着し、お冷のグラスをくるくる回したり、眠い目を擦ったりしながら未来を待っていた。急病で休んだ社員の代務や他駅でのトラブルによる列車遅延で多忙を極めた6日間。ようやく訪れた休日も午前中から出かける運びとなり、心身ともに疲れ切っているが、衣笠さんに会うならと、自らこの日を提案した。


 今朝は電柱の天辺に止まっているカラスの糞が頭に落下する夢を見て6時半に目覚めたが、この程度の悪夢はほぼ確実に予知夢。今までは警戒してなんとか避けてきたが、ふと気を抜いた隙に襲来するのが災難というもの。これから衣笠さんと落ち合って一緒に外を歩いているとき、黒い衣服に白い糞がへばり付くと目立つし何より汚い。気を引き締めなければ。


 ときより爽やかな風が吹き抜ける山を切り拓いた住宅街にひっそり構える地元住民御用達の隠れ家喫茶店。歴史情緒漂う観光地でありながら観光客の姿はなく、ほぼ満席の店内には程よい声量で談笑する中高年夫婦が多い。


 雰囲気に呑まれてリラックスしたいところだが、衣笠さんの用事が何なのか気になる。謎めいた気持ちで女性を待つのは人生初。僕もまだまだ経験不足と痛感しつつ、彼女の到着が待ち遠しい。そして願わくば、これまでのように純粋な笑顔が見たい。


 どうか神様、それくらいの欲求ならば、僕にも許されないだろうか。


 そんなことを考えていたら、坂の向こうから衣笠さんが登ってくるのが見えた。白いフリルブラウスに美脚を活かした黒タイツとベージュのミニスカートを組み合わせた可愛くも派手に着飾っていない、纏まりのある落ち着いた雰囲気のコーディネートだ。


 そんな彼女だが、いきなりピタッと立ち止まり、頭上を見上げた。視線の先には電柱に留まるカラスの姿がある。そう、目の前に糞が落ちたのだ。昨夜の夢は衣笠さんに起きる事象だったのか。幼少期に友だちのお祖母さんの死を予知したときと同じく、たまに他者の出来事も予知するのだ。


 感覚が鈍ってきたな。他者の出来事を自分のものとして予知してしまう間違いなど、これまではなかった。


 一向に飛び去らないカラスを警戒し、それを見上げたままその場から動かない衣笠さん。素面だが、走って早くその場を回避するか、でも走り出したときに糞が落ちてきたらいやだ。だからといって坂の天辺で車道に避けたら登ってきた車に気付かれるのが遅れて轢かれるかもしれない。きょろきょろした動作から、そんな葛藤が見え透いている。それが滑稽でクスクス笑いたいところだが公共の場でそうはゆかず、困ったものだ。


 衣笠さんは、これまで交流してきた多くの女性とは大きく印象が異なる。今でこそ仕事に打ち込んでいる僕だが、学生時代は交際相手を取っ替え引っ替えし、しかも殆どが下品な尻軽女だった。外見に囚われ欲求を満たすだけの関係。果たしてそれを恋愛と呼べるのか、恋人と呼べる存在であったのか、最近になってそんな疑問が浮上した。他に、交際していないのにからだを重ねた相手もいる。僕は愚かで単純な男の典型だ。 


 そんな折に出会ったのが衣笠さん。僕の心に開いた穴にスッと入ってきて満たしてくれる、ウエディングプランナーにはかなり適した人物だと思う。きっと僕は、会えば会うほど彼女を欲するようになるだろう。まだ数回しか会っていないのに、どうしてこんなにも魅力的に捉えられるのだろう。これまでのなんとなく仲良くなった女子に焦がれる感覚とは異なり、胸にずっしりとした痛みを伴うのに、果てなく澄明ちょうめいな感覚。僕には誰かを愛して良いほど残り時間はないのに、本当に困ったものだ。

 お読みいただき誠にありがとうございます!


 読みやすさ向上と、物語をよりお楽しみいただけるよう、ただいま過去話を順次加筆、改稿中です。なお、エピソードに変更はございません。

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