わくわくサスペンス城ヶ崎
大船駅から1時間半、私たちは伊豆高原駅で踊り子号を降りた。
「うーん! 空気が美味しい! 高原って感じ!」
「確かに、いい空気だ」
名の通り、高原に位置する伊豆高原駅。背後は山だけど、線路の下には道路が通っているみたい。
自動改札機はなく有人の改札口を出ると、駅は意外と広くて土産物店や飲食店がある。ちょっとしたテーマパークのみたいでなんだか楽しい。平日だからか観光客は中高年層が多く、あまり混み合っていない。私たちはちょっと浮いた存在かも。
駅前のロータリーでバスを待つ。タクシーが1台もおらず、駅前だというのに周囲に人気がない。
「駅構内は栄えているのに、駅前に人通りがないのは珍しいな」
と、本牧さん。
「うん、私もいまそう思ってた。電車からはけっこういっぱい人が降りてたのに、みんなどこ行っちゃったんだろう?」
「温泉宿の送迎バスかな。伊豆は温泉が多いから」
「あ、そうか! 伊豆お泊まり!」
「宇多田ヒカルの曲を『伊豆お泊まり』って発音すると歌いやすいらしいね」
「んん? あ、オートマチック!」
「そう、それ」
こうして雑談をしている間に15分が過ぎて、バスが来た。どこにでもある2つ扉のバスだけど前扉しか使わないらしく、人が降り終わるまでは乗れず、到着してから乗るまで2分くらいかかった。
私たちが乗るまで混み合っていたバスは一気に空いて、車内は数組の中高年観光客のみとなった。先頭にある運賃などを表示するディスプレイには、たまにこの地域を舞台にしたダイビングアニメのキャラクターが映る。
アップダウンの激しい住宅地や幹線道路を走っているうちに、通路側に座る本牧さんは眠った。あれだ、路線バスの旅に出ているあのおじさんみたいな感じ。こてっ、こてっと頭を揺らす本牧さんに、私はつい母性を滲ませる。
火の消えかけた本牧さんには、なんでもいいから燃料になるようなことをしてもらって、また何かを頑張る気になってほしい。何かを頑張って結果を出せば、大なり小なり彼は満足する。32歳までの人生でも、あと80年くらい生きたとしても、それはきっと変わらない。
だからいまはゆっくり休んで、燃料を蓄えてね。
沿道にはところどころ雑木林があって、木の枝とバスが接触する。そんな、自然豊かな場所。海に近いはずなのに、仙台の内陸部とそんなに差異のない街並み。
目的地、城ヶ崎海岸のパーキングエリアに着くと、バスは一旦停止してバックした。
「お待たせしました終点でーす」
運転士さんが言うと、バスの扉が開いた。
「着きましたよ」
「ん、んんん……」
バスを降りると、そこはパスタやソフトクリームの売店が並ぶ、欧風でちょっとおしゃれな場所だった。海岸は森の向こうにあるようで、下り階段がある。この先が、今回の目的地らしい。
ここは私が来たくて来たところ。サスペンスのロケ地としても有名な場所は、実際に見るとどんな感情が芽生えるだろう。
いざ行かん! わくわくサスペンス城ヶ崎!
「あ、本牧さん、ソフトクリーム食べてから行きません?」
まずはソフトクリームでひと休み。
 




