こうして休日がつぶれる
「お、おはよう」
目覚めた途端、ときめいた。衣笠さんが僕に微笑みかけてくれた。
ああ、もう、こういうの弱いな、僕は。
「あの、私、一旦帰って着替えてきていいですか」
「あ、うん……。って、えっ?」
「え?」
彼女は首を傾げた。
「ジャージのまま出かけるの?」
「きのうの洗濯物はまだ乾いてないし、致し方ありません」
「そうか……。寒いから何か温かいものでも飲みながら行って」
と言いながら、温かいものを持たせてやれないのが不甲斐ない。ステンレスボトルくらい買っておくべきだった。そうすればインスタントの玉子スープなら持たせられたのに。
「はい、じゃあ、ちょっと行ってきます」
「行ってらっしゃい」
彼女は玄関の扉をそっと閉じ、ジャージにハイヒールというミスマッチな恰好で出かけて行った。
◇◇◇
寒い寒い寒い寒い寒い! 私、きのうから寒いばっかりな気がする!
関東の乾いた寒さに全身を刺されながら自宅に辿り着くと、さっそく手を洗って冬着に着替えた。
紅茶でも淹れて行こうかな。
ヤカンで湯を沸かしてアールグレイの茶葉を適量入れた茶漉しを通して注ぐ。目分量だけどたぶん大丈夫でしょう。これをステンレスボトルに移す作業を2回繰り返した。紅茶などの発酵させた茶葉はからだを温める作用がある。
ジャージは洗濯して返すので、ステンレスボトルと財布を入れたトートバッグを肩に掛けて自宅を出た。
「ほはあ!」
衣類って偉大!
ついさっきジャージで歩いたときは全身極寒だったのに、もふもふダッフルコートを着ると寒くない! これなら北海道でも大丈夫! 札幌とか函館なら!
ちなみに、北海道のことはよく知らないけど、青森などの北東北や、南東北でも福島県の会津など、山間部のほうはヒート系インナーや高級ダウンなを着てもそれを突き抜けてくる地獄のような寒さだったりする。
本牧さんの家に戻ると、彼は着替えないまま居間の座布団に寝転んでいた。どうやら眠っているみたい。鍵を借りて出て良かった。
駅の仕事は徹夜があり不規則で、接客が憂鬱。ストレスの温床になっていると鉄道会社の人たちは口々に言う。本牧さんたちの会社だけじゃなくて、以前に挙式を担当した別の鉄道会社のお客様もそう言っていた。その人によると車掌になってからはだいぶストレスが減ったという。
なるほど、疲れてぐったりして、休日が潰れるんだ。




