女慣れしているはずの彼が
「うう寒さむ寒っ!」
浴室を出ると全身を突き刺す絶望的な寒さ! これ、仙台の実家でも冬にはよくあったけど、とてつもない寂しさのような感情が急に込み上げてきて、泣きたくなったり胸が締めつけられたりするやつ!
死ぬ! 寂しい! 帰りたい! ほんとに死ぬ!
「あ、着替えがない……」
ああああああ!! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬほんと死ぬこの寒さアカンやつ実家だったら電気ストーブ点けてるやつ!! でもここにはない!! すきま風も地味に泣き!!
仕方ない、とりあえず下着は洗濯、ワイシャツはそんなに汚れてないからこれ一枚でも着ておこう!!
ああ、私、ちゃんと考えれば良かった。途中のコンビニで下着買っとけば良かった!
「あうあうあうあう寒さむ寒さむ……洗濯機、スイッチオン」
何日分か溜め込んだ本牧さんの衣類といっしょに勝手に洗濯。あぁ、これでもう、乾くまで下着なし。ごめんなさい勝手に洗濯させていただきました。
あぁ、洗濯機はそれなりに新しいモデルだ。そりゃそうか、建物は古いけど家具家電は自分で揃えるものだから新しい。冷蔵庫もテレビも古くない。部屋のピカン、ピカンって音を出して点く紐付き照明は、前に住んでた人のなんだろうなぁ。
我が魂を昇天させかねない絶望的極寒に身を震わせながら居間に戻ると、本牧さんがテレビを点けたまま、座布団を枕に卓袱台に添って寝息をたてていた。
何か、かけるものはないかな。
私は風呂場を出て右の居間と隣り合う寝室に恐る恐る入り、敷きっぱなしの布団から毛布を持って彼に被せた。
さて、私はこの極寒の夜をどう乗り切ろうか。暖房は既に稼働中。服を着れば寒くない。
「んんん……。あ……」
「あ、おはようございます本牧さん」
「んんん、んんん、あ、ごめんありがとう……」
お化けのような寝ぼけ眼でのっそり起き上がった本牧さん。毛布と私に気付いて詫びと礼を言ったけど、意識はハッキリしていないと思う。
「お風呂、入る?」
「うん……」
のっそのそ。本牧さんはナマケモノのような足取りで歩き出し、寝室に入った。着替えを取りに行ったのかな。
案の定、本牧さんは緑色のジャージを持って部屋から出てきた。
「あの、これ、良かったら。中学のときに着てたものだから、サイズ合うかもと思って……」
「え……」
どうしよう、可愛い……。
本牧さんは頬を赤らめて、私を直視せずジャージと白いTシャツを差し出している。女慣れしているはずの彼のウブな少年のような仕草に、私は瞬時フリーズして、急に恥ずかしくなってきた。
「あ、はい! ありがとうございます!」
私は寒さと緊張が合わさった震える腕で、衣類一式を受け取った。




