未来、貨物線を走る電車に乗る
グオオオオオオン!! ブワンブワンブワンブワン!! ダダンダダン!!
「速い速い! この電車、こんなにスピード出るんだ」
「昔の電車はモーターの音が大きいから、迫力があるわね」
と、隣に座る小百合さん。
「なんか、エレキギターみたいな音ですよね。ぶわあああんって」
「そうね、言われてみれば確かに、そう聞こえるかも」
いつも新しい電車で通っている根岸線の山間部。仙石線では体感し得なかったスピードで駆け抜ける103系。心なしか、電車がうれしそう。進行方向右側、朝陽が差し込む窓は遮光幕を下ろして、昭和の趣を感じる。新しい電車はUVカットガラスになっているから、遮光幕は付いていない。
子どものように座席に膝を乗せ、遮光幕を半分上げて眼下に垣間見える街を見下ろす。
オレンジに染まる街、窓の隙間から入り込むひんやりした空気。トンネルに入ると窓がガタガタ揺れる。そうそうこの感じ。昔の電車だ。
駅のホームや沿線には、カメラを抱えた人がわんさかいる。スカイブルーに塗装された103系が再び根岸線を走る姿をレンズに収めたいのだろう。
厳密に言うと、この車両自体はもともと中央線や総武線で使用していて、時期によりオレンジ色もしくはカナリヤ色に塗装されていたらしい。つまり、現役時代はこの根岸線を走っていなかった。元根岸線用の車両は他の地方でまだ現役バリバリとのことで、貸してもらえなかった。
細かいことはともかく、現在この車両はスカイブルーに塗装された103系。根岸線用の車両と同車種、同塗色。
電車は桜木町駅から通常のルートを逸れ、高架から地下にもぐり、十数分走って鶴見駅で再び地上に出た。
以前からこの線路はどこに続いているのかと、並行する東海道線の車内から見ていて思っていたけれど、いつもの根岸線につながっていたとは。
本牧さんいわく、この線路は普段、貨物列車のルートとして使用されているらしく、ほかにも貨物線は多数存在するらしい。
都市伝説になっている地下迷宮とやらも、けっこうあるのかもしれない。なんてことを思った。
何本もの線路が並行する新鶴見信号場でしばらく停車し、ほかの列車を数本見送った。ここで運転士は松田さんから久里浜さんに交代。先頭と最後部、両サイドの運転台に運転士が乗っていると、折り返すときに移動がなく効率的。
これからポイントを渡って来た道を戻り、横浜羽沢へ向かう。この間、全身藍色に光る装甲ロボットみたいな顔をした通勤電車や貨物列車、特急列車など、色んな列車が通過して、ちょっと楽しかった。
さて、旅行気分もここまで。横浜羽沢に着いたらおもてなしの準備をしなくちゃ。
といっても、なるべく素のままの103系を味わいたいという新郎さんの要望で、電車にこれといった装飾はしていない。通路に飲食用のテーブルを置き、休憩で停車する駅の確認くらい。
1年半かけてじっくり準備したイベントは、いよいよ本番。
あぁ、これが終わったら、本牧さんと会う機会が減っちゃいそう。
憂いているうちに、電車は定刻通り横浜羽沢駅に到着した。




