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未来がずっと、ありますように  作者: おじぃ
ブライダルトレイン
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静寂の空と目覚める列車

 レストランを出た後、僕はネコのようににゃんにゃん擦り寄ってくる衣笠さんを介抱しながら、タクシーと電車を乗り継いで彼女の家まで送った。僕も泊まらせてもらった。


 衣笠さんは座るネコのようにまるくなり、頭を両手で囲いリビングの絨毯で眠った。僕が「シャワーを浴びさせてもらっていいですか」と訊くと、「いいですにゃ~」と許可してくれたので、有難く浴びさせてもらった。



 ◇◇◇



 月日は流れ、11月22日。ブライダルトレインの運行当日を迎えた。上京してきた昨年と比べ、今年は時の流れが速く感じる。仕事に慣れ、昨年よりも平坦な日々を送っているからかもしれない。


 空に星が瞬く夜明け前。私と小百合さん、本牧さん、久里浜さん、松田さんは鎌倉の西部にある電車の車庫にいた。車庫といっても車両は野ざらしで、横須賀線や横浜線、東北線用の車両が、室内灯も前照灯もテールライトも点いていない、パンタグラフを下ろし真っ暗な状態で眠っている。


 私たちの横には、ブライダルトレイン用の103系電車が、同じく真っ暗な状態で眠っている。久里浜さんと松田さんは、車内にいる。


 周囲の音がほとんど聞こえない、静寂の時間。車庫に沿う東海道線を走る貨物列車の音が、数分おきに聞こえる。夜中は貨物列車がたくさん走っているようだ。


 屋外にはやや口数の少ない三人が残り、しみじみと明け方の風を浴びている。夜に闊歩する者たちが、何処かへ帰ってゆくような、胸のざわつきを覚える。


 ふと、本牧さんを見た。本牧さんは、そういうものが見える。おかげで私は、じいちゃんと納得のいくお別れができた。


 あっちの世界は、確実に存在するんだなぁ。


 私の視線に気付いた本牧さんは、微笑して頷いた。彼も、見ていた小百合さんも、私の意図を察しているみたい。


 パッと、電車の室内灯が点いた。運転台にいる久里浜さんか松田さんが電源を入れたみたい。103系の室内灯は、現在主流の電車と比べると薄暗い。次の瞬間、奥にいる新しい電車にもあかりが灯った。ドア開閉時に点灯する赤いランプが、ドアは半開きの状態でピカピカ点滅している。やっぱり新しい電車のほうが、照度が高い。あかりによって室内が白く染まっている。


 新しい一日が、始まりを迎えようとしている。


 ちなみにきょうは、私の誕生日だったりする。おかげさまで24歳になった。


 私にとっての一大プロジェクトを、本牧さんに相談するところから、廃車になりかけていた車両の調達までをやった、大変な約1年半だった。


 電車1本を動かすのがこんなに大変だとは。


 本牧さんたち鉄道会社の人たちは、もっと大変だったと思う。


 この挙式に関しては、本当に感謝しかない。少なく見積もっても百人以上の人が関わって、電車という式場を造り上げた。


 久里浜さんは以前にもブライダルトレインの乗務を担当した(ちなみにそちらもこの電車同様、かつて仙台で活躍していたらしい)けれど、既存の運転し慣れた車両だったから、1から勉強した今回の車両のほうが1億万倍大変だったらしい。


 ほんとうに、ほんとうに、なんて有難いのだろう。私の知らない人たちも、陰でたくさん動いてくれた。


 藍色の空が、ほんの一瞬で瑠璃色になった。空の色がこんなにあっさり変わるのは、仙台の実家で早朝の畑仕事をしていたときに何度も見て知っている。


 さて、きょうは最高の一日にするぞ!

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