この人といるときが
僕はまた、夢の中で会社の誰かと喧嘩した。支社の中間管理職だと思う。目上だがその程度の相手にしてはずいぶんと本音をぶつけた。社長や会長相手のほうが、本音はぶつけやすいだろう。だからこれは夢だと、喧嘩の最中に気付いた。
その後、ふと場面が変わった。こんどは何かふわふわした、心地良い空間に身を包まれていた。背景はソメイヨシノほどの薄いピンク、そこに綿のような何かがふわふわ漂って、全身を預けている。
これも夢には違いないが、現実とリンクしているような感覚がある。
夢が醒めかけて、僕は状況を把握した。
僕はいま、衣笠さんの胸に顔を埋めている。
そうだ、僕は衣笠さんの部屋で昼寝をさせてもらってるんだ。
床に就いたときは一人だったはずだが、様子を見に来た彼女が眠くなってそのまま眠ってしまったか。はたまた彼女の上司である三浦さんのようにいたずらをしに来たか。
いや、彼女は僕の疲労が限界に達していると知っていながらちょっかいを出してくるような人ではない。
恐るおそる瞼を開けて胸から顔を離すと、彼女はすやすや気持ち良さそうに眠っていた。いま、何時だろうか。この部屋には窓がなく、時間の感覚が掴めない。
まぁ、いいか。きょうくらいはゆっくりしよう。ゆっくりさせてもらおう。
再び瞼を閉じたとき、衣笠さんは華奢な右腕で僕の頭を手繰り寄せ、顔を埋めても苦しくなく、尚且つ適度にやわらかな胸に収めた。抱き枕と勘違いしているのだろうか。彼女からは少し甘ったるい、桜のような、心やすらぐ香りがする。
あぁ、僕はやっぱり、この人といるときが、いちばん心地いい。
僕は鼻からゆっくり息を吐き、瞼を強く閉じる。
お読みいただき誠にありがとうございます。
次回より新章となります。




