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未来がずっと、ありますように  作者: おじぃ
はじめてのウエディングプランニング

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どうして私、変に意識し過ぎるんだろう

 ご要望を承ったところでお客さまにはお帰りいただき、資料を参考にさっそくご希望の通勤車両を保有している各鉄道会社の問い合わせ先をインターネットで調べた。本牧さんが在籍している日本総合鉄道の大阪支社や京都支社のほか、いくつかの会社が保有しているらしい。いずれの会社も土休日は問い合わせに応じないらしく、とりあえず朝比奈店長と相談した上でお客さまが一番推している地方の鉄道会社と、車両を走らせる予定の線路を保有する日本総合鉄道にそれぞれメールを送信し、月曜日に改めて電話にて問い合わせることにした。


 夜7時、仕事を終えた私は休憩室でサラダと宅配ピザを頂いてから職場を出て、少しばかり近くにある港の公園に立ち寄った。湾に向かって並ぶベンチはカップルで埋まっていて、この時間に恋人のいない私が訪れるのは場違いな気がする。


 でも、緊張をほぐすために、ちょっとだけ海風に当たりたかった。


 ムードを盛り上げるためなのか、黄色い光を放つ薄暗い街灯に照らされ、穏やかに揺れる海面を見下ろしながらデッキを歩く。こんなに穏やかなのに、海を見るとどうしても震災の日を思い出してしまう。心を静めるために来た海なのに、仙台出身の私には、これがどうしても付き纏う。けれどあの日の記憶は、決して忘れてはいけない。


 気が済むまで散歩をしてから、駅へ向かい電車に乗った。駅に本牧さんの姿は見当たらず、ちょっと残念。


 土曜日とあって電車は空いており、満席ながらもドア脇の背もたれは確保できた。


 首都圏こっちの電車は進んでるなぁ。二ヶ国語の放送や各ドア上に二台ずつ設置された液晶などを見て、改めて思った。二ヶ国語の放送は東北も同じだけど。うん、東北もなかなか進んでる。しかしそれだけに、改めて考えればこの辺りで半世紀以上も前の電車を走らせるなんて、実はかなり難しいんじゃ……。ますます嫌な予感がしてきた。


 うぅ、どうしよう、どうしよう。頭が重たくなって胃がキリキリしてきた。誰か助けて……。


 そうだ、本牧さん!


 かばんからスマートフォンを取り出して通信アプリの画面を開き、本牧さんのアイコンをタップする。


 あぁ、でもどうしよう、お仕事の相談とはいえ駅員さんにそんなこと訊くのは躊躇ためらわれる。本牧さんだって疲れてるだろうし、迷惑だよね。


 躊躇ちゅうちょしている間に、電車は終点に到着した。今夜は初接客を頑張ったご褒美に駅ナカでショートケーキを買って帰ろう。


 駅前の喧騒けんそうを抜け、車通りも少ない静かな通りには、頭上を駆ける宙吊り式モノレールの轟音が響いた。いつものように人気ひとけのない夜道の恐怖に打ち勝ちようやく帰宅すると、やはりいつものようにホッと息が漏れた。


 居間に荷物を置き手洗いうがいを済ませると、中身が崩れぬよう大事に運んできた、たった一切れのショートケーキが入った白い箱をそっと開けた。自販機で買ったペットボトル入りのノンシュガーストレートティーを添えて、至福のひととき。イチゴはお皿の隅に除けて最後のお楽しみ。


「ふはぁ~、生き返るぅ」


 生クリームのさらっとした甘さと、スポンジのふわふわした食感が、数日続いた緊張を一気にほぐしてゆく。生きてて良かった。電車の手配とか、これから色々と大変そうだけど、お客さまに喜んでほしいから、頑張らなきゃ!


 そうだ、本牧さんに相談、どうしよう。


 いつまでも迷って結局後日に相談して手遅れになるより、ダメ元で早めに話を繋いだほうが良い気もする。大変なお仕事の予感がするし、良かったら力を貸してもらおう。


 再び通信アプリの画面を開き、本牧さんのアイコンをタップ。お仕事の相談だから、文面は簡潔でわかりやすく。


『こんばんは。夜分にすみません。大事なお話があります。お時間の都合が良いときに、二人でお会いできませんか』


 送信アイコンをタップ!


「送っちゃったぁ」


 一仕事終えて、肩の力が抜ける。お仕事と割り切ったら、思いのほかサクッと送信できた。おっといけない、食事中にスマートフォンいじってた。


 夜のティータイムを終えると、スーツを脱ぎYシャツと下着姿で洗面所に入り、それらも脱いで洗濯機に入れた。


 換気扇を回し、手ぬぐい片手に浴室へ入り、蛇口レバーを下ろす。シャワーを浴びると、その温かさや湯気の効果で溜め息が漏れ、徐々に気持ちが落ち着いてくる。


 公園、ケーキ、シャワー。癒しの3連続。ふふぁ~、気持ちいい~。


 あれ? ちょっと待って私、さっき本牧さんになんてメッセージ送った?


 確か、大事なお話があります、二人で会えませんか、みたいな。


「うあああああ!! やっちまった!! これじゃ愛の告白するみたいだべぇ!!」


 シャンプーの最中なのに頭がかゆい!! どうしよう訂正文送る!? でもそれもなんかあれだし!! 本牧さんが私の意図をちゃんと理解していたらそんな必要ないし。逆になんで訂正する必要があるのか訊かれたら答えづらいし!!


 でも何か策はあるはず!! 私は手の泡を流し、頭は泡まみれ、全身びしょ濡れのまま居間へ飛び出し、スマートフォンを確認した。


『わかりました。早速ですが、明日の午前中などいかがしょうか』


 返信来てるううう!! 本牧さん、語尾にクエスチョンマーク付けないところが紳士っぽい!!


 本牧さんの文面は至って平静。これ、私だけ慌てふためいているのでは?


「はぁ……。どうして私、変に意識し過ぎるんだろう。自分に自信がないからか」


 本牧さんとは以前お食事をご一緒させて頂いたけど、明日もそんな機会があると思うと胸が詰まって鼓動が速まり、今夜も寝不足になりそうだ。深みにはまらないうちにノリで楽しめる洋楽ポップでも聴いて、考えごとをどこかへ飛ばしちゃおう。

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