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未来がずっと、ありますように  作者: おじぃ
おねショタ旅行
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百合丘花梨の想い

 本牧さんが退勤した。私もそろそろ帰ろうかな。ダイヤ乱れに伴い指定された超勤時間はとうに過ぎている。業務日誌は書き終えている。これ以上職場にいても手当は支給されない。


 液タブをシャットダウンして薄暗い階段を上がり、更衣室へ。


 制服から私服に着替えながら、私はきょう一日の予定を考えあぐねていた。


 どうしようかな。


 家に帰っても、厳しい父親とマイナスオーラを漂わす母親がいて居心地が悪い。


 未来ちゃんは仕事だから、遊び相手はいない。


 そう、私にとって友だちと呼べる友だちは、未来ちゃんしかいない。


 未来ちゃんに彼氏ができたら、私はひとりぼっちの時間が増える。未来ちゃんに会える時間が減ってしまう。未来ちゃんの幸せを考えれば喜ばしいことだけど、自分の時間を削がれて得られた友だちの幸福を、私は素直に喜べない。


 他人の幸せを喜べないなんて冷たい、人間としておかしい。


 私みたいな人を、世間はそういう目で見ると思う。


 勝手に思ってろ。


 それに実は、人畜無害そうに見える未来ちゃんにも、そんな一面がある。


 誰かが守ってあげないと関東では生きられそうにない未来ちゃんの、どろりとした一面。


 そういう人が、幸せの絶頂を彩るウエディングプランナーをやっている。


 ふふふ、マジカオスでウケる。


 着替えを終え、一般旅客(りょかく)に紛れて北行ほっこう2番線のホームに出た。


 桜を散らした霞んだ空気が、緩やかにカーブする線路を吹き抜けている。


 ラッシュアワーを終えたばかりの平日のこの時間帯が、一日の中で最も駅利用者が少ない。


 一応はアニメ好き同士で友だちになったていの私と未来ちゃんだけど、無意識のうちに奥底を察知していたのだと思う。そういうところを知れたから、未来ちゃんのことを同志以上に人間として好きになったのだと思う。


 いい子で少し、腹黒い。


 この完璧じゃない感じが、人間らしい。


 そうだよ、この世の中、綺麗だけは生きられない。


 そういうことは、鉄道の仕事をして、自殺志願者と接触して、思い知った。


 あぁ、この人は、心が綺麗ですごくいい人。


 でも、世間はそういう人を、容赦なく叩き潰す。


 なら叩き潰すサイドに回れば順風満帆な人生が送れるかといえば、そうじゃない。


 そういうことをしてきた小、中学校の同級生たちは借金苦に陥ったり、薬物中毒になったり、誰かに追われていたり、そんな日々を送っている。


 そしたら何事にも我関せずの事なかれ主義で生きていればというのも違う。何もアクションを起こせない人が順風満帆に生きられるほど、世間は甘くない。せいぜいブラック企業にこき使われて、不要になれば捨てられるのが関の山。


 未来ちゃんはよく「綺麗なだけでも汚いだけでも生きられない」と、私に云う。「自分で言うのもなんだかだけど、私はどっちかといえば純粋なほうで、汚いことは親と地元の友だちに擦り込まれた」と。


 でも、なるべくなら綺麗に生きていたい。そんなことを思っているときに社会人になって、えーと、三浦さん、三浦小百合さんに出逢ったと。駅にもたまに来る三浦さんは、世の中の汚いことをたくさん知りながらも、綺麗な生き方を貫くすごい人なんだと。


 私は未来ちゃんと対等なつもりでありながらもある部分は見上げていて、未来ちゃんは私と対等に接しながら三浦さんを見上げている。


 そりゃ、ガキんちょの私なんかが誰かの見本になれるほど人間できちゃいないけど、理不尽な嫉妬は芽生えるというもの。


 その行き着かなさが、いまの私なんだと認める。踏み止まって、進行信号でも警戒信号でも、進行を指示する信号が現示されるのを、力を蓄えて待つ。


「お、駅員の姉ちゃんじゃん!」


 電車の接近放送が流れたとき、聞き覚えのある声が飛び込んできた。

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