なぜあの男が
7時36分、僕は南行1番線ホームで監視業務に当たっていた。対面の2番線に北行電車が1分延で入線。それが発車すると、衣笠さんと、同僚の、確か子安という男が視界に入った。2番線の監視に当たっている百合丘さんと会話をしている。
男の住所は反対方向の鶴見だ。それがこの時間、衣笠さんとともに現れた。
つまり、そういうことか。
業務終了まで残り84分。徹夜勤務のラストスパートで僕は、なんというものを見てしまったのだろう。
しかも相手がアレだ。
もし男が僕より温厚で、キャリアも申し分ないとしたらそれは致し方ないと諦めもつく。
だが男は、ただのチャラ男だ。
僕と男はほとんど会話をしていない。僕がルールーコーポレーションに出向いた際の挨拶程度だ。だが、態度や身のこなし、気配りの程度などから、推し量れるものは多分にある。
そんな輩に想い人を取られるとは、なんということだ。
余命が6年少々しかない僕は、やはり恋愛などするなということか。
にしてもだ。
あいつはないだろう、あいつは。
衣笠さんの母性本能をくすぐったか、衣笠さんもその程度の人間ということか?
いや、後者は考え難い。
過去の失恋経験に後者であったケースはあったが、衣笠さんはそれに当てはまらないだろう。
僕のようなひねくれ者とフィットするかは不明だが、とにかくあいつはない。
後で百合丘さんに訊いてみるか。




