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子安駆、24歳

 耐えた、よく耐えた、俺。


 子安こやすかける、24歳。ブライダル企業ルールーコーポレーションの平社員、入社3年目、彼女なし。


 彼女はいないが、好きな人はいる。


「さあ、そろそろ出なきゃ遅刻ですよ」


 そう言って薄暗い玄関で靴を履く後輩、衣笠未来。


 俺は、未来ちゃんが好きだ! 好きだ好きだ好きだー!!


 周囲は俺が小百合さんを好きだと勘違いしているようだけど、俺が好きなのは未来ちゃんだけ。


 そりゃ、小百合さんに魅力がないってことはない。


 あんな女性レディーと一晩をともに過ごせたら、それはなんて甘美な体験なんだと思う。あれほど気品に満ちた女性を、俺はほかに知らない。


 だが彼女や嫁にするとしたら、話は別だ。


 小百合さんと俺は住む世界や気質があまりにも違い過ぎる。月とすっぽんだ。


 例えばカフェ。小百合さんの行きつけは職場近くのお洒落なベイサイドカフェ。俺も昼休みによく連れて行ってもらうけど、一人で行く気にはならない。


 そんな俺の行きつけのカフェは、自販機だ。


 缶コーヒーを買って、そこらのベンチで一息つく。都会の星空を眺めながら歩いて飲むときもある。


 よく行く場所にも違いがある。


 高級住宅街、山手やまてに住む小百合さんが休日に出かけるのは、ブランド品の店が建ち並ぶ元町もとまち、歴史情緒あふれる鎌倉、たまに藤沢の水族館とか茅ヶ崎のカフェやレストランにも行くらしい。


 どこもお洒落タウンじゃねぇか!


 対して山手と同じ横浜市内でありながら、ディープタウン鶴見つるみのボロアパートに住む俺がよく行くのは、川崎。そう、あの川崎。川崎のディープなストリートでゲーセンに入り浸ったり、風俗嬢の手ほどきを受けたり、その後は立ち飲み屋でホッピーを流し込む。それが俺のルーティーン。


 仮にそんな俺と小百合さんがサヤになったらどうなる?


 川崎に行かない俺って、もはや誰?


 川崎に行ってもチネチッタで映画を観るくらいしかできなくなる俺って一体……。


 川崎がダメなら伊勢崎町いせさきちょうという選択肢もあるが、職場に近過ぎてアウト。


 そんな感じで、俺と小百合さんがサヤになっても上手く行く気がしないし、交際を申し込んでもやんわり断られると思う。


 他方、未来ちゃんならどこにでも行けそう。


 実際、昨夜は大衆居酒屋に付き合ってくれたし、仙台でも地元の友だちとそういう店によく行くらしい。


 風俗には行かなくなるが、いっしょにゲーセンで遊んで、クレーンゲームで未来ちゃんが好きなアニメの景品をゲットしてあげたり、チネチッタで映画をみたらラブホ直行!


 ともに歩む未来が想像しやすい!


 それに、お高くとまっていない、東京とか神奈川の女子にはなかなかみられない、純朴で、接する人を選ばない感じとか、ちょっとドジなところとか、畑で土をいじってそうな感じとか、いままで女子から与えられた刺激とは方向性が180度違う、人間らしい感じに、俺は純粋に胸を締め付けられた。


 あぁ、これが恋っていうんだな。


 そんな感情を、初めて知った。


 飲んで酔い潰れたおかげで、俺は未来ちゃんの家に運び込まれていた。どうやってここまで来たのかは覚えていない。起きたら玄関に転がっていた。


 朝起きて、風呂を借りてシャワーを浴び、トースト2枚だけど朝食を食べさせてもらえた。


 しかも明け方、見知らぬ部屋にいた俺はここがどんな場所かを確かめるために上がり込んで各部屋を見て回ったら、未来ちゃんがベッドで寝てるではないか!


 半ズボンのジャージに白いTシャツ、透けるピンクのブラと、袖口から覗くわきのチラリズム!


 怪我の功名ならぬ酒の功名!


 だがここで本能のままに襲撃したらいろいろと取り返しがつかない。


 たぎる股間のリビドーを限界まで我慢して、俺は弾け飛ぶ前に必死でトイレを探した。


 さて、これから未来ちゃんといっしょに出勤だ! ひゃっほーい!

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